vol.22 ヴァイオリン ワディム・レーピン
「The Art of Vadim Repin」プロジェクト
トリフォニーホールで2晩続けてのコンサート
「普通のリサイタルでなく信頼する仲間と共演」
――リサイタルと協奏曲の2晩続けての演奏会です。ヴァイオリンとピアノ、オーケストラの組み合わせではなくチェロが入ります。なぜ、このようなプログラムを思いついたのですか?
"The Art of Vadim Repin"というプロジェクトのお話をいただき、今の自分のすべてを聴いていただくために、普通のピアノとのリサイタルの枠ではなく、信頼している最高の共演者たちとチャイコフスキーのトリオを演奏することを思いつきました。コンチェルトは、私の中で最も重要なレパートリーであるショスタコーヴィチを、そしてせっかくサッシャ(アレクサンドルの通称)に来てもらうので、この特別な機会に、日本では演奏したことのないブラームスの二重協奏曲を取り上げることに決めました。
――ラフマニノフとチャイコフスキーのピアノ三重奏曲はCDをリリースしています。ラフマニノフとチャイコフスキーの曲の魅力を教えてください。
ラフマニノフのトリオは、ロシア音楽史上、室内楽の最高傑作と言っても過言でないチャイコフスキーのトリオに影響を受けて作曲されました。そのチャイコフスキーのトリオは、好きかどうかというようなレベルを遥かに超える名曲中の名曲だと思います。日本で室内楽を演奏するのは15年振りです。チャイコフスキーのトリオは壮大な物語的作品で、3人のための3人によるコンチェルトのような作品です。我々3人の全力での演奏をぜひ聴きにいらしてください。
――クニャーゼフ、コロベイニコフとは最近、よく一緒に演奏活動をしているのでしょうか?
サッシャとは昔から、アンドレイとは近年多く共演しています。一言では言い表せませんが、サッシャはその情熱的な演奏、カンタービレが魅力、アンドレイはまだ20代、わたしたちよりは若い世代になりますが、ものすごい才能の持ち主で、その研ぎ澄まされた音色、ピアニズムに惹かれます。2人がラフマニノフのチェロ・ソナタを演奏したときの感動は忘れられません。
――ショスタコーヴィチは今年4月、弾き振りしたそうですね。ショスタコーヴィチを弾き振りするとは信じられません。そんなことが可能なのですか?
もちろん普通では考えられません。私が今年から故郷ノヴォシビルスクで始めた音楽祭で、指揮する予定だったワレリー(ゲルギエフ)が、直前に急きょキャンセルし、さんざん迷った結果、指揮者なしで演奏することを決めました。「可能かどうか?」、そんなことを考えてどうこうという次元ではありませんでしたよ! この音楽祭では私のために作曲されたベンジャミン・ユスポフのヴァイオリン協奏曲「Voice of Violin」を初演しました。この曲の日本初演も近いうちに実現したいと思っています。
Vadim Repin
1971年シベリア生まれ。5歳でヴァイオリンをはじめる。85年、14歳のとき、東京、ミュンヘン、ベルリン、ヘルシンキ、翌年にはカーネギーホールにデビュー。17歳でエリーザベト王妃国際コンクールに優勝。その後もベルリン・フィル、ニューヨーク・フィルなど世界のトップ・オーケストラと共演。CDも多く、ドイツ・グラモフォンのデビュー盤はムーティ指揮ウィーン・フィルとのベートーヴェンに、アルゲリッチとのクロイツェル・ソナタのカップリング。使用楽器は1743年作のグァルネリ・デル・ジェズ「ボンジュール」。
The Art of Vadim Repin
◎11月27日(木)19:00
ワディム・レーピン(ヴァイオリン)
アレクサンドル・クニャーゼフ(チェロ)
アンドレイ・コロベイニコフ(ピアノ)
ラフマニノフ:悲しみの三重奏曲第1番
チャイコフスキー:アンダンテ・カンタービレ
ショーソン:詩曲 ラヴェル:ツィガーヌ
チャイコフスキー:ピアノ三重奏曲
「偉大なる芸術家の思い出に」
◎11月28日(金)19:00
指揮:ロベルト・トレヴィーノ 新日本フィル(管弦楽)
ベートーヴェン:序曲「エグモント」
ブラームス:ヴァイオリンとチェロのための二重協奏曲
ショスタコーヴィチ:ヴァイオリン協奏曲
会場はいずれもすみだトリフォニーホール
■問い合わせ:トリフォニーホールチケットセンター
電話:03-5608-1212
vol.22 ヴァイオリン アンティエ・ヴァイトハース
アルカント・カルテットのメンバーとして来日
ソロ、室内楽、音楽監督、教授など多忙な活動
「私はいい人に出会って道が開けていきました」
今年のミュンヘン国際コンクールでドイツ人出場者が少ないことが話題になった。ハンス・アイスラー音楽大学ベルリンで教えており、「偶然ではない」という。
「ドイツでは子供時代に音楽教育を受ける人が少ないのです。財政難で音楽の授業が縮小しています。ドイツは伝統的に家族で音楽を楽しんで来ました。しかし、この習慣が薄れてきています。私の大学では、南部のバイエルン州とバーデン=ヴュルテンベルク州の出身者が多いのです。これはまだ家庭で音楽を楽しむ習慣が残っているからではないでしょうか」
音楽に親しむ機会を増やそうと、ヴァイトハースらは「ラプソディ・イン・スクール」というプロジェクトを続けている。「プロが学校に行き、子供たちに楽器を教えるなどの活動です。子供たちはとてもオープンで、音楽に関心がないわけではないのです。これまで接点がなかっただけなのです」
自身は音楽が大好きな母親のもとで育った。いつもラジオからクラシック音楽が流れていた。「姉がヴァイオリンを習い始め、私もやりたい、と言いました。子供時代はヴァイオリンが楽しくて、練習を大変と思ったことはありません。地元コトブスとドレスデンの音楽学校に通い、旧東ベルリンの大学に通いました」
そう、彼女が生まれたのは旧東ドイツ。今、当時のことを思い出すとアンビバレント(二律背反)な気持ちになるという。
「良い面としては教育制度が充実していました。閉ざされていたゆえに集中して勉強ができました。しかし、窮屈な生活でした。家の中で話していたことは外で話してはいけませんでした。飢えることはありませんでしたが、思考が制限され、常に気をつけていなくては、と鬱々としていました。内面に矛盾を抱えた生活でした。ですから音楽が私に果たした役割は大きかったのです。音楽は私だけの島でした」
今回はアルカント・カルテットのメンバーとして来日した。2002年の結成メンバーだ。一方で、名門アンサンブル、カメラータ・ベルンの音楽監督も務めている。「アルカントのプロフィールにはたぶん、ジャン=ギアン(ケラス)がイニシアティブを取ったと書いてあるでしょうが(笑い)、それぞれが知り合いだったの。2000年にタベア(ツィンマーマン)とトリオで来日しました。楽しくて、いつの間にか本格的にカルテットをやり始めました。アンサンブルなど多彩な形で活動できているのがうれしい。私はいい人に出会って道が開けていきました」
Antje Weithaas
東独・コトブス生まれ。4歳でヴァイオリンを始める。ハンス・アイスラー音大ベルリンでヴェルナー・ショルツに師事。クライスラー・コンクール、バッハ・コンクール、ハノーファー国際ヴァイオリン・コンクールで優勝。ソリストおよび室内楽奏者として活躍。1962年設立の名門アンサンブル、カメラータ・ベルンの音楽監督。2002年、アルカント・カルテット創立メンバー。ハンス・アイスラー音大ベルリン教授を務める。使用楽器は2001年製のピーター・グレイナー。
■CD
ベートーヴェン:ヴァイオリン協奏曲
ベルク:ヴァイオリン協奏曲(写真)
スティーヴン・スローン(指揮)
スタヴァンゲル交響楽団
(キングインターナショナル)KKC-5380
モーツァルト:クラリネット五重奏曲
モーツァルト:弦楽四重奏曲第15番
アルカント・カルテット
イェルク・ヴィトマン(クラリネット)
(キングインターナショナル) KKC-5369