おすすめアーティスト vol.30 バリトン 加耒徹

vol.30 バリトン 加耒徹

photo by kei Uesugi

11月に公演されるNISSAY OPERA
「ドン・ジョヴァンニ」のタイトルロールに抜擢
「人生の大きな一歩になると思います」

 11月に日生劇場で上演される「ドン・ジョヴァンニ」のタイトルロールに抜擢ばってきされた。
 「オーディションを受けたのですが、まさか選ばれるとは思っていませんでした。大学時代に自主企画で歌った経験はあります。楽譜を改めて見たところ、全体の流れは何となく頭に入っていましたが、レチタティーボは覚え直さなければいけませんね」
 スペインのドン・ファン伝説によるドン・ジョヴァンニは貴族だが、相当な女たらし。従者レポレロは「カタログの歌」で、イタリアで640人、ドイツで231人、ここスペインではなんと1003人の女性が泣かされたと歌う。
 「ドン・ジョヴァンニは実にまめで、女性をその気にさせてしまいます。しかし、裏切ってもあまりうらまれません。ドンナ・エルヴィーラもドン・ジョヴァンニが好きだから追いかけています。ドンナ・アンナの父、騎士長が出てきて殺してしまったのは、彼にとっての想定外でした」
 放蕩の限りを尽くしたドン・ジョヴァンニは最後、騎士長の石像に「悔い改めよ」と責められるが、拒否し地獄に落ちていく。

 「ドン・ジョヴァンニは決して信念を曲げません。そしてとても潔い。私だったら、動揺して『話し合おう』とか言っているでしょう。ドン・ジョヴァンニはステータスや威厳があり、かっこよくなくてはいけません。自分の中にはまだない威厳というものを今回発掘していきたいです」
 ところで、声楽の道に進んだのは声楽家の母親がいたから。
 「4歳からヴァイオリンを習っていました。高校生のとき、母のレッスンについていったら、先生から歌ってみろ、と言われたのが最初です。高校生のころは人前で歌うのは抵抗がありました。オペラをすることによって人前で歌うのが好きになりました。しかし、現在も交響曲を聴くのは好きです」
 東京藝大に入学し、勝部太教授につき、ドイツ・リートを中心に勉強した。いまはバッハ・コレギウム・ジャパンで宗教曲を歌う一方、オペラ出演も増えている。5月には、この「ドン・ジョヴァンニ」と同じ菅尾友の演出によるヘンデルのオペラ「ジューリオ・チェーザレ」のアキッラ役を演じた。
 「オペラは演出によって全然違います。菅尾さんの演出は躍動感があり、役者としての自分を見せることができます。今回は若手のキャストで、『ドン・ジョヴァンニ』はアンサンブルが醍醐味です。どんなアンサンブルになるか今から楽しみです。モーツァルトは芝居も音楽も大事です。こういう作曲家はあまりいません。今回は私の人生の中で大きな一歩になると思います」

Toru Kaku

1984年、福岡市出身。東京藝大卒業。同大学大学院修士課程を首席で修了。二期会オペラ研修所マスタークラスを総代で修了。第20回友愛ドイツリートコンクール第2位。第15回NEUE STIMMEN 2013"新しい声"国際コンクールで、日本人男声初のセミファイナル進出。15年5月、二期会ニューウェーブ・オペラ「ジューリオ・チェーザレ」アキッラ役に出演。BCJ声楽メンバーとして海外ツアー、録音にも参加。15年6月にはセカンドアルバム「Kaku Toru×ドイツ歌曲」をリリース。福嶋敬晃、勝部太に師事。二期会会員。

ここで聴く

NISSAY OPERA2015
オペラ「ドン・ジョヴァンニ」
11月14日(土)、15日(日) 各日14:00開演 日生劇場
            14日    15日
ドン・ジョヴァンニ: 加耒 徹   池内 響
騎士長:       斉木健詞   峰 茂樹
ドンナ・エルヴィーラ:林美智子   柳原由香
ドン・オッターヴィオ:金山京介   望月哲也
レポレロ:      久保田真澄  青山 貴
ドンナ・アンナ:   中江早希   宮澤尚子
マゼット:      桝 貴志   金子亮平
ツェルリーナ:    見角悠代   鈴木江美
指揮:広上淳一 演出:菅尾友  読売日本交響楽団
■問い合わせ:日生劇場 ●03-3503-3111

-Recommended Artist