vol.46 バリトン 大沼徹
五島記念文化賞オペラ新人賞研修記念成果発表
足かけ4年のドイツ留学で培った声を聴かせる
「これまで歌ってきたレパートリーの集大成です」
二期会や新国立劇場のオペラに次々と出演、今月も「トリスタンとイゾルデ」のクルヴェナールを歌った大沼徹が、五島記念文化賞オペラ新人賞研修記念の成果発表でリサイタルを行う。
「平成22(2010)年度の受賞です。賞の規定では、通算で海外に1年間滞在することになっており、日本とドイツと行ったり来たりして、最終的に日本に帰ってきたのは2014年の夏。ようやく成果発表のリサイタルを開催できる時を迎えました」
留学したのはドイツのマイセン。指揮者のハルトムート・クレッチェマン、演出家のジークリンデ・ヴィーガント夫妻に個人レッスンを受けた。
「私の恩師、東海大学の梶井龍太郎先生がドイツの劇場で歌っていた縁です。2人とも引退しており、週に6日、毎日4時にお宅を伺い、まずコーヒーとケーキを食べ、世間話をします。本当はレッスン前に食べたくないのですけど(笑い)。生徒は僕だけでしたから、内弟子みたいなものです」
夫人は舞台女優としても活躍していたので、手の上げ方から足の伸ばし方までやって見せてくれた。
「台詞を発するためには、自分の中に発する動機を作らないといけない、と教わりました。日本人は母音のAが平べったくなってしまい、音の色が違うとよく言われました。また、楽譜通りに、勝手なフレージングをしないよう注意されました。1行歌うのに2時間かかるときもありました」
もともとは教員志望で、大学入学後もオーケストラ・サークルでオーボエを吹いていた。大学院時代に1年間ドイツに留学。その後、小澤征爾音楽塾の「ヘンゼルとグレーテル」のカヴァー歌手に選ばれ、パリでレッスンを受けた。そして再びヨーロッパでの勉強を志した。
2011年の東日本大震災の発生時はドイツにいた。故郷、福島県いわき市の実家は損壊した。
「だからこそ日本国内で頑張ろうと思いました。ドイツにいる間にたくさんのことを吸収しよう、そして日本で活躍できる歌手になろうと思いました」
研修成果発表のリサイタルは、前半にシューベルトの「魔王」やR・シュトラウスの歌曲、後半にオペラ・アリアを置いた。
「ドイツ・リートが大好きです。リートとオペラを並行してやっていきたい。今38歳です。40歳を一つの区切りの目安にしていました。リサイタルはこれまで歌ってきたレパートリーの集大成です」
Toru Onuma
福島県いわき市出身。東海大学教養学部芸術学科卒。同大学院修了。同大在学中、同大海外派遣留学生としてドイツ・フンボルト大学に留学。二期会オペラ研修所マスタークラス修了。第14回日本モーツァルト音楽コンクール第1位。第21回五島記念文化賞オペラ新人賞を受賞し、ドイツ・マイセンに留学。二期会ニューウェーブオペラ「ウリッセの帰還」ウリッセでオペラ・デビュー。新国立劇場「沈黙」ヴァリニャーノ、二期会「パルジファル」アンフォルタス、「ホフマン物語」悪魔4役などに出演。二期会会員。
五島記念文化賞
オペラ新人賞研修記念成果発表
大沼徹バリトンリサイタル
11月6日(日) 14:00
サントリーホールブルーローズ
安井陽子(ソプラノ)、河原忠之(ピアノ)
シューベルト:「春に」/「魔王」
R.シュトラウス:「ああなんて僕は不幸な男なのだろう」
ヴェルディ:歌劇「リゴレット」より「悪魔め鬼め」
コルンゴルト:歌劇「死の都」より「ピエロの歌」、他
■問い合わせ:二期会チケットセンター
電話03-3796-1831