vol.61 ピアノ 仲道郁代
デビュー30周年で
オール・シューマンのリサイタル
CD「シューマン:ファンタジー」もリリース
「シューマンは青春そのものでした」
今年デビュー30周年を迎えた。11月5日にオール・シューマン・プログラムのリサイタルを行う。
「シューマンには高校生のころから 惹 かれていました。多感な高校時代は、ちょっとしたことで傷ついた不安定な時期で、思春期の自分探しをしていたころです。家で練習していて、なんて美しい世界なのだろうと、はまりました。シューマンの1つ1つの音が移ろいやすい心の世界を描いていて、泣けてきたぐらいです。青春時代の脆さ、恥ずかしさ、そんな感覚もシューマンの中に感じていました」と思い出を話す。
シューマンとショパンやブラームスの世界は少し違うという。もちろんベートーヴェンの世界観とも異なる。
「ショパンの作品には、ポーランドと彼との関係が影響を与えています。ブラームスの作品には、自分自身の〝存在〟というものが大切です。ベートーヴェンは感情と理性が拮抗する稀有な作曲家。シューマンの作品には、美しいもの、手に入らないものへの焦燥と憧れがあると思います。シューマンとともに、泣き、笑う。自分をかなぐり捨てて入り込んだ時に見えてくる世界があると思うのです」
30年前のデビューCDもシューマンのピアノ・ソナタ第3番「グランド・ソナタ」だった。その後も「謝肉祭」や「子供の情景」とシューマンが続く。シューマンに心惹かれていたことがよく分かる。
「もっとポピュラーなものを、と言われましたが、デビュー盤はシューマンに決めていました。レコード会社が承知してくださったことに感謝しています。シューマンは青春そのものでした。演奏活動30年の経験を積み、経験則から理解できたと思うこともあります。でも、音楽、芸術、そして人生を探し続けていることは30年前と変わりません。30年前の私と、今の私。感覚は、青春時代と変わらないのだと改めて感じています」
リサイタルのプログラムは、アベッグ変奏曲、交響的練習曲、幻想曲、「3つのロマンス」から嬰ヘ長調。9月27日に発売されるCD「シューマン・ファンタジー」にはアベッグ変奏曲を除くリサイタルと同じ作品が収録されている。4作品はクララと結婚する前に書かれた。
「シューマンは愛情豊かな人だったと思います。 溢 れんばかりの思いがあり、それ故に形が崩れることさえあります、愛する気持ち、憧れる気持ち、人生への渇望を大切に音にしています。そこが大好きなのです。シューマンの求めた美しい世界、その繊細さ、はかなさ、深さに私は今なお、囚われています」
Ikuyo Nakamichi
国内外での受賞を経て、1987年ヨーロッパと日本でデビュー。ベートーヴェン、モーツァルトのソナタ全曲演奏会やその録音、ショパンの人生を追うシリーズ公演など、音楽への深く多角的な理解と表現で高い評価を得ている。デビュー30周年を迎えた2016/17シーズンには、全国での記念公演のほか、小林研一郎指揮ハンガリー国立交響楽団、ゲヴァントハウス四重奏団との全国ツアーを展開。10年に渡るサントリーホール演奏会を結実させ、新たに春と秋、2つの10年間シリーズを始動する。
オール・シューマン・プログラム
11月5日(日) 東京文化会館小ホール(完売)
デビュー30周年記念BSフジpresents
11月18日(土) 軽井沢大賀ホール
11月22日(水) サンケイホールブリーゼ、他
シューマン:「トロイメライ」、リスト:「愛の夢第3番」、他
■問い合わせ:event@bsfuji.co.jp
仲道郁代ピアノ・フェスティヴァル
2018年3月16日(金)19:00 東京芸術劇場コンサートホール
ラヴェル:ラ・ヴァルス、バラキレフ:イスラメイ、他
■問い合わせ:ジャパン・アーツぴあ 電話03-5774-3040
■CD
「シューマン:ファンタジー」(写真)
(ソニー)SICC-19008 (9月27日発売)