vol.62 演出 宮城聰
ドヴォルザークのオペラ「ルサルカ」を演出
日生劇場で11月9、11、12日に上演
「ドヴォルザークの人生を反映したオペラ」
静岡県舞台芸術センター(SPAC)の芸術総監督を務める。1990年に結成した劇団ク・ナウカでは、「動く」俳優と「語る」俳優が2人1役で演技をする独自の手法が世界的に注目を集めた。今月は、インドの叙事詩「マハーバーラタ」を演出した舞台が歌舞伎座でかかっている。
「歌舞伎とオペラはアプローチは正反対でも最後は似たようなものができます。オペラは、歌手にハードルを課すことで日常使わないエネルギーが出て、それを観客が浴び元気になる。これは普遍的な舞台芸術の喜びでもあります」
オペラにも詳しく、モンテヴェルディの「オルフェオ」などの演出も手がけている。ドヴォルザークの「ルサルカ」にはワーグナーの影響を見て取る。
「『ルサルカ』の冒頭に森の精や水の精が出てきますが、『ラインの黄金』に似ています。ワーグナー的な壮大な音響で、歌手にも強い声が求められます」
「ルサルカ」は1901年3月、プラハで初演され、大成功を収めた。あらすじは、森の奥の湖に住む水の精ルサルカが、人間の王子に恋をする。魔法使いによって人間に変えてもらうが、代償として声を失う。そして王子の愛が得られなければ水底で永遠の呪いを受けなければいけない。王子はルサルカの美しさに魅せられ、結婚を決意する。しかし…。
「ドヴォルザーク自身の投影もあります。ルサルカは森の中で素朴で変わらない生活をしています。そこに都会から王子がやってきます。ルサルカを宮廷に連れてくると、魅力がなくなってしまいます。ボヘミアの文化は素晴らしいのですが、ウィーンやロンドンはきらびやかに見えたと思います。ドヴォルザークがいくらプラハで成功しても、チェコ語ですから他の国では理解されない。外国の公女は商業資本のようなもの。ドヴォルザークはニューヨークから帰った後、『ルサルカ』を書いています。魔法使いがルサルカに〝母語〟を失ってもいいのか、と聞きます。時々エスニック料理を食べたくなるように、ドヴォルザークは本当のボヘミアの精神ではなく、ボヘミア風味の作品を流通させてしまったことを悔恨していたのではないか」と大胆に解説する。
こうした解釈は別にしても、アンデルセンの「人魚姫」と似た妖精の物語は、初めてオペラを見る人にも分かりやすい。宮城は、日生劇場の特徴である凝った装飾の内装の客席を水底に見立て、舞台と客席を一体化し、水底からオーケストラが鳴っているような演出を考えている。
「ファンタスティックな描き方から始めようと思います。日生劇場は中高生など初めてオペラを見に来る人も多いのです。見慣れている人を前提に演出してはいけないと思います。この場所で祝祭的な体験をしてほしい」
Satoshi Miyagi
1959年東京生まれ。演出家。東京大学で小田島雄志・渡辺守章・日高八郎各氏から演劇論を学び、90年ク・ナウカ旗揚げ。同時代的テキスト解釈とアジア演劇の身体技法や様式性を融合させた演出は国内外から高い評価を得ている。2007年4月SPAC芸術総監督に就任。17年「アンティゴネ」をアヴィニョン同演劇祭のオープニング作品として法王庁中庭で上演、アジアの演劇がオープニングに選ばれたのは同演劇祭史上初めてのことであり、その作品世界は大きな反響を呼んだ。04年第3回朝日舞台芸術賞受賞。05年第2回アサヒビール芸術賞受賞。
NISSAY OPERA 2017
ドヴォルザーク:オペラ「ルサルカ」
11月9日(木)、11日(土)、12日(日)
各日13:30 日生劇場
指揮:山田和樹 演出:宮城聰
読売日本交響楽団 東京混声合唱団
9、12日 11日
ルサルカ 田崎尚美 竹多倫子
王子 樋口達哉 大槻孝志
水の精 清水那由太 妻屋秀和
魔法使い 清水華澄 与田朝子
外国の公女 腰越満美 秋本悠希
ほか ほか
■問い合わせ:日生劇場 電話03-3503-3111
2018年1月27日(土) 静岡市民文化会館