おすすめアーティスト vol.86 テノール ヴィットリオ・グリゴーロ

vol.86 テノール ヴィットリオ・グリゴーロ

Photo:Ayano Tomozawa

英ロイヤル・オペラ来日公演「ファウスト」を歌う
日本において本格的なオペラへの登場は初めて
「ファウストは決して容易な役ではありません」

 イギリスのロイヤル・オペラが4年ぶりに、6回目の来日公演を行っている。グノーの「ファウスト」とヴェルディ「オテロ」の2演目で、スター歌手たちの共演が豪華だ。そのうちの1人がイタリアのテノール、ヴィットリオ・グリゴーロ。「ファウスト」のタイトルロールを歌っている。
 音楽監督アントニオ・パッパーノと出演者5人で開幕記者会見が行われたが、モータースポーツが盛んなイタリア出身らしくパッパーノのことをこう評した。
 「私はF1が好きなのですが、F1の車にたとえれば、指揮者の役割はエンジンという人が多いと思いますが、私はタイヤだと思います。タイヤが道路にしっかりついていないと、どんな優秀なドライバーでも前には進みません。オペラでは何か起きたときに対応してくれる指揮者がいなければなりません。マエストロと一緒にマジックを起こせることがうれしい」
 子供のころローマのシスティーナ教会合唱団で歌っていた。2003年には「ウエスト・サイド・ストーリー」のトニーで来日、昨年はリサイタルを開き、大好評だった。日本における本格的なオペラでは初登場になる。
 「子供のころ、家族の誰かが私に歌手の種をまいたのではないでしょうか。仕事ではなく自然に歌手になったのです。両親は自分で選べないし、自分も誰かに選ばれて生まれてくるのではありません。違う両親だったら歌手にならなかったかもしれません。オペラ歌手かF1ドライバーになりたかったのですが、17歳でどちらかを選ばなければいけなくて、音楽の道に進みました」

ロイヤル・オペラの記者会見より。
左からダルカンジェロ、グリゴーロ、パッパーノ

 「ファウスト」の原作はゲーテ。ファウストは、悪魔メフィストフェレスに美しいマルグリートの幻影を見せられ、自らの魂をわたす契約をし、若返る。
 「『ファウスト』が面白いのは、人生で2度のチャンスをもらうことです。しかしその結果、家族、愛、人生の楽しみをすべてなくしてしまいます。マルグリートがいたから悪魔と契約したのではなく、ファウストは元々時計を巻き戻したかったのです。マルグリートはその引き金を引いたのです」
 ファウストを十八番とし、これまで5つのプロダクションでファウストを歌ってきた。
 「今回の演出のマクヴィカーの暗さが好きなのです。ドラマチックで、すべてがつまびらかに表れてしまいます。ファウストを初めて歌ったのは2011年です。老人のファウストはまだ若い私にとっては不自然な動きで、ふだんと違う声を使っています。10年以上の経験を積まないと歌えないと思います。決して容易な役ではありません」

Vittorio Grigòlo

イタリア・アレッツォで生まれ、ローマで育った。ローマのシスティーナ教会合唱団ではソリストを務めた。
オペラ・デビューはローマ歌劇場での「トスカ」の羊飼いだった。23歳のとき、ミラノ・スカラ座に最年少テノールとして登場。以来、「ホフマン物語」、「ウェルテル」、「ロメオとジュリエット」のタイトルロール、「ランメルモールのルチア」エドガルドなどを歌い、チューリヒ歌劇場、メトロポリタン歌劇場、ローマ歌劇場など名門歌劇場で活躍。2010年に「マノン」デ・グリューで英国ロイヤル・オペラにデビューした。

ここで聴く
ロイヤル・オペラ2019年日本公演

グノー:「ファウスト」全5幕

9月22日(日)15:00 神奈川県民ホール

演出:デイヴィッド・マクヴィカー
ファウスト:ヴィットリオ・グリゴーロ
メフィストフェレス:イルデブランド・ダルカンジェロ
マルグリート:レイチェル・ウィリス=ソレンセン

ヴェルディ:「オテロ」全4幕

9月21日(土)16:30、23日(月・祝)16:30 東京文化会館

演出:キース・ウォーナー
オテロ:グレゴリー・クンデ
デズデモナ:フラチュヒ・バセンツ
ヤーゴ:ジェラルド・フィンリー

いずれも指揮はアントニオ・パッパーノ

■問い合わせ:NBSチケットセンター 電話03-3791-8888

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