vol.111 脇園彩 メゾ・ソプラノ
オペラ「チェネレントラ」アンジェリーナで主演
アリア「悲しみと涙のうちに生まれ」が聴きもの
「アンジェリーナは善良さそのもので、愛されます」
来月、新国立劇場で公演されるロッシーニのオペラ「チェネレントラ」の主役アンジェリーナを歌う。童話「シンデレラ」を原作としており、いじわるな姉は登場するが、魔法使いは出てこない。1817年にローマで初演され、すぐに世界中で人気作になった。ロッシーニ歌いと評価される脇園は、「チェネレントラ」には何かと縁がある。
「現役のときの東京芸術大学の入学試験に『チェネレントラ』のアリアを持って行きました。ギャンブルでしたね(笑い)。ペーザロのロッシーニ・アカデミーで勉強しているとき、ミラノ・スカラ座で『子供のためのチェネレントラ』のオーディションがありました。スカラ座アカデミーは2年に1回しか入学試験がないのですが、その年はミラノで万博があるので『セビリアの理髪師』と『チェネレントラ』の2つを上演するため、メゾを探していました」
オーディションは合格、この公演がスカラ座デビューにつながった。「チェネレントラ」はこの後、ベローナやサルデーニャで歌っている。
「『チェネレントラ』は最後のアリアだけだはありません。どこを聴いても充実しています。楽譜を見ると圧倒されます。勝手に心が踊らされるのです。音楽は緻密に書かれ、数学的な美しさがありますが、堅苦しさを感じさせません」
アンジェリーナが歌うアリア「悲しみと涙のうちに生まれ」は華麗だが、アジリタの技術など難曲で知られる。
「アンジェリーナは善良さそのものです。理不尽な扱いを受けてもめげずに、前を向く姿勢が健気で愛らしいのです。最後のアリアはエネルギーが大きい。アンジェリーナは『私の復讐は許すことです』と歌います。私はこれをすごく大事にしています。過去をなかったことにするわけではなく、自分が選択した未来には悲しみはありません、という決意表明なのです」
圧倒された「マリエッラ・デヴィーアの声を手に入れたい」とイタリア留学を決め、パルマの音楽院に入った。初めはイタリア語もできず、家に引きこもっていたという。ロッシーニ・アカデミーでは校長のアルベルト・ゼッダに見出され、オーディションをたくさん受けさせられた。
「みな才能を持っているのです。ドイツのコンクールに行ったとき、あるヘルデンテノールに言われた『あなたを認めてくれるところに行きなさい』という言葉を大事にしています。自分の感覚に合った耳がいい人がいてくれて、そこで音楽をすることで成長していくのです」
Aya Wakizono
東京生まれ。東京藝術大学卒業、同大学院修了。2013年、パルマ・ボーイト音楽院に留学。
14年、ペーザロのロッシーニ・アカデミーに参加し、「ランスへの旅」に出演。同年、ミラノ・スカラ座アカデミーに参加、「子供のためのチェネレントラ」アンジェリーナでスカラ座にデビュー。18年にはロッシーニ・フェスティバル「セビリアの理髪師」ロジーナに出演。ロッシーニとモーツァルトをレパートリーの中心に活躍。新国立劇場は19年、「ドン・ジョヴァンニ」ドンナ・エルヴィーラでデビュー、今年も「フィガロの結婚」ケルビーノに出演している。
新国立劇場オペラ
ロッシーニ:「チェネレントラ」(新制作)
10月1日(金)19:00、3日(日)14:00
6日(水)19:00、9日(土)14:00
11日(月)14:00、13日(水)14:00
ドン・ラミーロ:ルネ・バルベラ
ダンディーニ:上江隼人
ドン・マニフィコ:アレッサンドロ・コルベッリ
アンジェリーナ:脇園彩
アリドーロ:ガブリエーレ・サゴーナ
クロリンダ:高橋薫子 ティーズベ:齊藤純子
指揮:城谷正博 演出:粟國淳
東京フィル 新国立劇場合唱団
問い合わせ:新国立劇場ボックスオフィス
TEL:03-5352-9999