交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
モーツァルト:ピアノ協奏曲第20番、第25番
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
クラウディオ・アバド(指揮)
モーツァルト管弦楽団
(ユニバーサル)UCCG-1649 3000円
至芸と呼ぶにふさわしいアルゲリッチとアバドの最後の共演
2013年3月、ルツェルン・イースター音楽祭におけるライヴ。14年1月に逝去したアバドは協奏曲の伴奏でも定評があった。アルゲリッチとの組み合わせでも数多くの名盤を残してきた。両者の顔合わせによるおそらく最後の録音にあたるこのモーツァルトでも、至芸と呼ぶにふさわしい演奏を聴かせている。天衣無縫に飛翔するピアノとアバドの指揮するオーケストラが絶妙な対話を交わし、音楽する喜びに満ち溢れた演奏を展開している。
器楽・室内楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ツィゴイネルワイゼン
~ユリア・プレイズ・サラサーテ
●パブロ・デ・サラサーテ:スペイン舞曲集第4集/ナイチンゲールの歌/ バスク奇想曲/ツィゴイネルワイゼン、他
ユリア・フィッシャー(ヴァイオリン)
ミラナ・チェルニャフスカ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCD-1392 2940円
生誕170年のサラサーテの内奥へ迫る
ピアニストとヴァイオリニストの両面で活躍するユリア・フィッシャーが、2014年に生誕170年を迎えたサラサーテの作品で魅力的な録音を作り上げた。「ツィゴイネルワイゼン」はもちろん、演奏される機会に恵まれない曲にもスポットを当て、特にサラサーテがスペインの民族音楽をもとに書いた作品群を選曲。作曲家の自作自演の録音やさまざまな資料を研究し、内奥へと迫る。彼女はこのピアノ・パートも弾きたいのではないだろうか。
リヒテル 幻の東京リサイタル
1984年3月27日
●ハイドン:ピアノ・ソナタ第24番/ピアノ・ソナタ第32番●ドビュッシー:前奏曲集第1巻より「デルフィの舞姫たち」「帆」「野を渡る風」、他●映像第1集より「水の反映」
スヴャトスラフ・リヒテル(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC-2083
オープン価格
完璧な技巧と美しい絵画を思わせるピアニズム
日本をこよなく愛したリヒテルが、東京文京区にある回遊式日本大庭園の蕉雨園で限られた聴衆に演奏した録音が登場。ハイドンとドビュッシーというこだわりの選曲で、リヒテルの静謐(ひつ)で叙情的な響きが遺憾なく発揮されている。完璧な技巧と表現とフォルムに彩られた、美しい絵画か詩を思わせるピアニズムで、特にドビュッシーが聴き手を各曲の物語のなかへといざなう。蕉雨園に座って演奏を聴いているような臨場感あふれる1枚。
オペラ・声楽
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
シューベルト:連作歌曲集「冬の旅」D.911
ヨナス・カウフマン(テノール)
ヘルムート・ドイチュ(ピアノ)
(ソニー)SICC-30151 2730円
暗く陰影に富み、これまでにないリアルな「冬の旅」を表現
恋に破れた若者が、凍(い)てつく夜にあてどもない旅に出る「冬の旅」。カウフマンは曲に深く入り込み、若者の激しい心の揺れをドラマチックに描写する。犬やカラスにも追い立てられ、孤独を深めて死に向って歩く若者の姿を。24曲中のいくつかの曲をポイントに構成して、物語を展開させ、起伏を付け、まるでオペラのように聴き手にあざやかな情景を印象づける。暗く陰影に富んだ若々しい声が若者の姿に重なり、これまでにないリアルな「冬の旅」が出来上がった。
小林沙羅:「花のしらべ」
●シューベルト:野ばら/シューベルト:すみれ/中田喜直:「さくら横町」/別宮貞雄:「さくら横町」ほか、全18曲
小林沙羅(ソプラノ)
(コロムビア)COCQ-85048 2940円
COCQ-85047 4725円
※ 写真集付き、初回限定盤
まっすぐで可憐、香り立つような初々しさが魅力のソプラノ
いま注目を集めている美人若手ソプラノ、小林沙羅のデビュー・アルバム。シューベルト、モーツァルト、シューマン、R・シュトラウスの「乙女の花」などのドイツ・リートから日本歌曲や自作曲まで、華やかな優しい曲ばかりが集められている。表現はまだ硬さが残るものの、小林沙羅のまっすぐで可憐な声は、これらの曲に合っていて、香り立つような初々しさが感じられる。中田喜直と別宮貞雄の同じ歌詞による「さくら横ちょう」がとくに聴きもの。