新譜CD&DVD vol.16(2014.8)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

マーラー:交響曲第1番「巨人」
(1893年ハンブルク稿)

トーマス・ヘンゲルブロック(指揮)
北ドイツ放送交響楽団
(ソニー)SICC-30169
2808円

ハンブルク稿の国際マーラー協会新全集版の世界初録音

 ここに収められているのは交響曲形式による音詩「巨人」で、1893年に演奏されたハンブルク稿の国際マーラー協会新全集版による世界初録音である。全体は2部からなり、「青春の日々より」と題された第1部は第1楽章から第3楽章までで構成され、第2楽章には「花の章」が置かれる。第2部「人間喜劇」は第4楽章、第5楽章からなる。現行版とはオーケストレーションも異なり、そうした特徴をヘンゲルブロックは鮮やかに描き出している。

器楽・室内楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

グリーグ:「抒情小曲集」、バラード作品24

●「グリーグ」「抒情小曲集」より「アリエッタ」/「民謡」/「ノルウェーの旋律」/
「小鳥」/「愛の調べ」、他
ペーテル・ヤブロンスキー(ピアノ)
(オクタヴィア)OVCT-106
3456円(SACDイブリッド)

北欧の涼風を感じさせ、自然を描き出す響き

 ヤブロンスキーにはデビュー当初から徹底した取材を行い、演奏も聴き続けたが、現在は奏法が大きく変化。疾走するような若さに任せた演奏から次第に内省的な演奏へと変容し、このグリーグの「抒情小曲集」では、詩情と孤独と静けさと透明感が音に宿る。「バラード」はノルウェーの民謡が内奥に潜み、主題を幾重にも変奏させていく様式が興味深い。ヤブロンスキーの北欧の涼風を感じさせ、自然を描き出す響きが聴き手をかの地へといざなう。

スキャンダル

●トリスターノ:ア・ソフト・シェル・グルーヴ●ストラヴィンスキー:「春の祭典」
●R=コルサコフ:「シェヘラザード」から●ラヴェル:「ラ・ヴァルス」
アリス=紗良・オット(ピアノ)
フランチェスコ・トリスターノ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1655 2808円

「春の祭典」で激しくぶつかりあう2人のピアノ

 華麗で新鮮で人を引き付けるデュオが誕生した。アリス=紗良・オットとフランチェスコ・トリスターノは人間性も音楽性も異なるが大の親友。タイトルは初演がスキャンダルを巻き起こした《春の祭典》をもじったものだが、彼らの激しくぶつかりあうピアノをも表している。トリスターノの「ア・ソフト・シェル・グルーヴ」の譜面を見たアリスは「難しい」と絶叫したそうだが、その壮絶な演奏も聴きどころ。ゴージャスな舞踊を連想させる。

オペラ・声楽

石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト

モ-ツァルト:歌劇「フィガロの結婚」

アンドレイ・ボンダレンコ(アルマヴィーヴァ伯爵)
ジモーネ・ケルメス(伯爵夫人)ほか
テオドール・クルレンツィス(指揮)
ムジカ・エテルナ
(ソニー)SICC-30153/5 6480円
※ 3CD、(BLU-SPEC CD 2)

聴いたことがないほどエレガントで新鮮な響きの「フィガロ」

 話題の新鋭、ギリシャ生まれでロシアのテルミ国立歌劇場の音楽監督クルレンツィスが、「モーツァルトの魔法をこれまでにないやり方で演奏した」と言う個性的な演奏。フォルテ・ピアノの通奏低音や古楽器が活躍し、これまで聴いたことのないほどエレガントで新鮮な響きだ。伯爵夫人役のケルメス以下、いずれも若手の実力派が揃い、華やかな装飾音符を散りばめた軽やかで自然な歌唱を披露する。生き生きした繊細な音楽づくりは、まさに目から うろこの驚き。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

ショスタコーヴィチ:交響曲第4~6番

ワレリー・ゲルギエフ(指揮)
マリインスキー劇場管弦楽団
(Mariinsky)MAR0545(2枚組)
(SACDハイブリッド)
オープン価格

ショスタコーヴィチならではのシニカルさの極致

 ゲルギエフのショスタコーヴィチ再録音。持ち前の強烈なドライヴ力で引っ張り回すのではなく、それどころか、アンサンブルが妙にユルく、全体的にパラパラとした散漫な音楽。これこそ、ショスタコーヴィチならではのシニカルさの極致だ。決して暑苦しくならない第4番、激しいテンポの切り替えが 諧謔かいぎゃく的な第5番、そして第6番の第1楽章など不思議な美しさがある。重厚なロシア音楽ではなく、卓抜なショスタコーヴィチ解釈として聴くべし。

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