交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
R.シュトラウス:交響曲「英雄の生涯」、4つの最後の歌
アンナ・ネトレプコ(ソプラノ)
ダニエル・バレンボイム(指揮)
ベルリン・シュターツカペレ
(ユニバーサル)UCCG-1690 3024円
絶妙な呼吸感でオーケストラをドライヴするバレンボイム
R.シュトラウスの生誕150年を祝して2014年に行われた演奏会のライヴ。ネトレプコの「4つの最後の歌」では格調の高さが光る。オーケストラの質感に富んだ演奏に呼応し、旋律を慈しむように歌い上げている。「英雄の生涯」でもオーケストラはきわめて雄弁。バレンボイムは絶妙な呼吸感をもってドライヴしているのが実感される。作曲者シュトラウスもしばしば指揮台に立った長い伝統を誇る団体シュターツカペレ・ベルリンならではの記念アルバムといえるだろう。
マーラー:交響曲第10番(クック補筆版)
エリアフ・インバル(指揮)
東京都交響楽団
(オクタヴィア)OVCL-00520 3456円
(SACDハイブリッド)
虚飾を排し作品そのものに語らせる姿勢を貫くインバル
2014年のライヴ録音で、インバルと東京都響によるマーラー・チクルスの完結編にあたる。デリック・クック補筆による、草稿による演奏会用ヴァージョンに基づく。インバルはここでも精緻な音楽づくりによって作品そのものに語らせる姿勢を貫き、マーラーの演奏経験が豊かな都響から説得力の大きな音楽を引き出している。この補筆版ではトルソーとしての美感が際立つが、インバルではそうした作品の性格が前面に押し出されている。虚飾を排した演奏だ。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
J.S.バッハ:フランス組曲(全曲)
アンドレア・バッケッティ(ピアノ)
(ソニー)SICC-30198~9 3132円
自由な発想で新時代のバッハ像を描く
2014年の来日公演で個性的な演奏を披露し、新時代のバッハ像を描き出したバッケッティ。彼のバッハは聴き手の心を瞬時にとらえ、演奏にくぎ付けにする引力の強さをもつ。この「フランス組曲」も、冒頭から最後まで一瞬たりとも耳が離せない。自在な発想、自然な装飾音、自由なフレーズの歌いまわし、特有の間のとり方、各々の舞曲の表現などいずれも斬新で目が開かれる思い。最後の音が鳴り終わると、また最初に戻るような不思議な感覚。
オペラ・声楽
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
ヘンデル:「メサイア」
ルーシー・クロウ(ソプラノ)
ティム・ミード(カウンターテナー)
エマニュエル・アイム(指揮)
ル・コンセール・ダストレ
(ワーナー)WPCS-12876/7(2CD)
4860円 (SACDハイブリッド) エラート原盤
小編成で臨んだ古楽界の俊英による繊細な響きの「メサイア」
古楽界の俊英で美貌も話題の指揮者アイムが、自身の古楽アンサンブル&合唱団と共に「メサイア」に挑んだ。通常は大編成の圧倒される響きなのだが、この録音では20人ほどの合唱に、25人ほどの小編成なので、響きはやわらかく繊細だ。ソプラノのクロウが素晴らしい。アイムは初演時(合唱15人、器楽20人以下という)や1752年演奏時の編成を参考にしたという。生き生きと抒情的な演奏で、イエスの物語をじっくり聴かせる。三ケ尻正氏の丁寧な解説付き。
フィリップ・ジャルスキー「ピエタ~ヴィヴァルディ聖なるアリア集」
ヴィヴァルディ:「明るき星々よ」、「スターバト・マーテル」、ほか全7曲
フィリップ・ジャルスキー(指揮&カウンターテナー)
アンサンブル・アルタセルセ
(ワーナー)WPCS-12884
2808円 エラート原盤
カウンターテナーの貴公子が歌い指揮したヴィヴァルディ作品
近年は歌手が自分で古楽アンサンブルを組織して、指揮もするのが流行なのだろうか。カウンターテナーの貴公子ジャルスキーも、自身が組織したアンサンブル・アルタセルセを率いて、指揮とソロをこなしている。曲はキャリアの最初から取り組んできたヴィヴァルディに立ち返り、コントラルトのためのモテットを集めたという。「スターバト・マーテル」「明るき星々よ」などの名作が、ジャルスキーの透明でなめらかで摩訶不思議な声で熱く歌われる。