交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ブルックナー:交響曲第6番
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
hr響(フランクフルト放送響)
(ソニー)SICC-10215 3024円
現代的な鋭敏な感覚が支配するブルックナー
パーヴォ・ヤルヴィとhr響(フランクフルト放送響)によるブルックナーの交響曲全集の第5弾。2010年のライヴ録音である。これまでの4曲の録音と同様に、曖昧さのない明晰なブルックナーで神秘的な超自然的な味わいには乏しいが、それに代えて、現代的な鋭敏な感覚が支配している。響きを構成するすべての旋律的要素が透けて見えるような音楽にはヤルヴィの面目躍如たるものがある。比較的地味な第6番の魅力を的確に描きだした演奏といえるだろう。
モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第5番
●ヴュータン:ヴァイオリン協奏曲第4番
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
(ユニバーサル)UCCG-1694 2808円
まるで自由に呼吸するように自然に旋律を歌い上げる
2012、13年の録音。ハーンが少女時代から愛奏してきた2つの協奏曲のカップリング。モーツァルトの瑞々しく、清新な響きはこのヴァイオリニストならではのもの。作品の様式を尊重しながらも、まるで自由に呼吸するように自然に旋律を歌い上げている。パーヴォ・ヤルヴィの指揮するオーケストラはピリオド・アプローチを取り入れて生命力に満ち溢れた音楽を奏でている。ヴュータンの協奏曲では、淡いロマン的な情緒をにじませ、オーケストラも色彩豊かな音色を醸す。
マーラー:交響曲第4番
●シューベルト:交響曲第7番「未完成」、マーラー:「子供の不思議な角笛」から”トランペットが美しく鳴り響くところ”、リュッケルト歌曲集から”私は仄かな香りを吸い込んだ”
エリーザベト・シュワルツコップ(ソプラノ)
ブルーノ・ワルター(指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(キングインターナショナル)ALT-267 オープン価格
ワルターの遺した演奏の中で最良のマーラー第4番
1960年5月29日にウィーン楽友協会大ホールで開催されたマーラー記念祭の演奏会ライヴ。ワルターにとって、最後の渡欧となった機会の記録である。シューベルトの交響曲第7番では、古き良き時代のウィーンのスタイルを尊重し、ワルターが慈しむように演奏している。心に沁みわたるような音楽だ。マーラーの2つの歌曲と交響曲第4番ではシュヴァルツコップがソロを担当。ワルターが遺した10種類の第4番のなかで、録音状態を含め、最良のものではなかろうか。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ザルツブルク・リサイタル2008
●モーツァルト:ピアノ・ソナタ第2番/第12番●ショパン:24の前奏曲/マズルカ第47番/第41番●スクリャービン:詩曲●ラモー:未開人●バッハ:イエス・キリスト、われ汝を呼ぶ
グリゴリー・ソコロフ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1695/6 3780円
表情豊かで物語性に富み、別世界に誘うショパン
いまもっともナマ演奏を聴きたいと切望されているロシアのグリゴリー・ソコロフが、貴重なライヴ録音をリリース。モーツァルトは軽快さと自由さにあふれ、聴き手を笑顔にする。だが、強く心をとらえるのはショパン。各曲が表情豊かで物語性に富み、聴き手の胸の奥深い部分に語りかけてくるため、別世界へと運ばれるよう。アンコールでは最後のバッハが心に染み入り、深い打鍵と弱音の美しさが際立ち、敬虔な演奏に心が癒され浄化する。
音楽史・バロック
安田和信◎音楽評論家
インプロヴィザータ タイトル付のシンフォニア集
●ヴィヴァルディ:シンフォニアハ長調「インプロヴィザータ」●サマルティーニ:序曲(シンフォニア)ト短調●モンツァ:シンフォニアニ長調「海の嵐」●ボッケリーニ:シンフォニア第6番「悪魔の家」、他
ファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)
エウローパ・ガランテ
〈2004年録音〉
(エラート)WPCS-13027 1512円
バロック時代を通じて書かれた表題を伴う器楽
国内初出の盤。表題を伴う器楽はバロック時代全体を通じて書かれ続けたが、本盤は18世紀イタリアの事例を紹介している。盤の表題にもなっているヴィヴァルディの「即興的シンフォニア」をはじめ、モンツァの「海の嵐」にデマキの「ローマの鐘」といった珍しい作品、さらにはボッケリーニの「悪魔の家」等を収録しているが、海の嵐や鐘といった定番のトポスを扱っているのならば、同様な表題の作品との比較も楽しいだろう。