交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
シューベルト:交響曲第8番「ザ・グレート」
トーマス・ヘンゲルブロック(指揮)
北ドイツ放送交響楽団
(ソニー)SICC-30220 2808円
ロマン的な味わいと現代的な鋭敏な感覚をあわせ持った演奏
2012年にリューベックのムジーク・ウント・コングレスハレにおける収録。彼らの本拠であるハンブルクのホールでなく、リューベックの会場を使用したのは冒頭のホルンの扱いと無関係ではないだろう。ヘンゲルブルックはそれを上方のバルコニーから吹かせ、独特の遠近法を生んでいるからだ。主部の刻々と変化するテンポと細かなアゴーギクは旧来の演奏からは感じられない雄弁な効果を発揮。シューベルトのロマン的な味わいに現代的な鋭敏な感覚をあわせ持たせた演奏だ。
ワーグナー:「ニーベルングの指環」からの管弦楽作品集
ニーナ・ステンメ(ソプラノ)
フィリップ・ジョルダン(指揮)
パリ国立オペラ管弦楽団
(ワーナー)WPCS-13056/7(2CD) 4860円(SACDハイブリッド)
注目の指揮者ジョルダンが得意のワーグナーを世に問う
ワーグナーのアニヴァーサリー・イヤーである2013年に収録されたもの。パリ・オペラ座・バスティーユで上演した「ニーベルングの指環」の成果を踏まえ、フィリップ・ジョルダンが満を持して世に問う抜粋盤。そこではベルリン州立歌劇場でバレンボイムのアシスタントを務め、その後同歌劇場の首席客演指揮者として活躍したジョルダンの経験が随所に活かされている。パリのオーケストラらしい色彩がワーグナー作品にアクセントをもたらしている。ステンメの歌唱も第一級のものだ。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
シューベルト:即興曲集
●シューベルト:4つの即興曲D899/4つの即興曲D935
小山実稚恵(ピアノ)
(ソニー)SICC-10230 3240円(SACDハイブリッド)
シューベルトの内なる感情に迫り、詩のように描く
シューベルトの「即興曲集」はいずれも旋律が美しく、リートの世界を思わせ、ときに涙がこぼれそうになるほど情感豊か。小山実稚恵はそれらの作品の内なる感情にひたすら迫り、美の宝庫ともいうべき主題を一篇の詩のように描き出す。とりわけ彼女が「ナイーヴの結晶」と表現している作品90の第3番が比類なき美しさを放ち、聴き手の目を潤ませる。この静謐で平穏で哀愁に満ちた分散和音こそ、シューベルトの真骨頂。胸の奥に浸透してくる。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
ディアナ・ダムラウ「ベルカントの炎〜オペラ・アリア集」
●ヴェルディ:歌劇「椿姫」より「不思議だわ!…ああ、そはかの人か…馬鹿げたこと…花から花」、ほか全9曲
ディアナ・ダムラウ(ソプラノ)
ジャナンドレア・ノセダ(指揮)
トリノ王立歌劇場管弦楽団、ほか
(ワーナー)WPCS-13060 2808円
徐々にレパートリーを広げつつあるコロラトゥーラのアリア集
いまコロラトゥーラ・ソプラノとしては、最高峰に立つダムラウ。ベルカントの分野から次々とレパートリーを広げ、ヴェルディやプッチーニも歌うようになってきた。今回は「道化師」のネッダのアリアまで歌っている。美しい澄んだ声を持つダムラウだが、音色も多彩になってきており、これはそんな彼女の現在の魅力を伝えるアルバムだ。ベッリーニやドニゼッティに加え、ヴィオレッタやミミ、ルイーザなど新しい役をのびのびと魅力的に歌っている。
幸田浩子「スマイル」 ─母を想う─
●チャップリン:「スマイル」/ハーライン:「星に願いを」/R.シュトラウス:「明日!」/アーレン:「虹の彼方に」、ほか全16曲
幸田浩子(ソプラノ)
加藤昌則(編曲、ピアノ、オルガン)
西江辰郎(ヴァイオリン)
大萩康司(ギター)、ほか
(コロムビア)COCQ-85257 3024円
母への熱い想いが伝わってくるような、やさしいアルバム
5月の母の日に向けての企画だろうか。子守歌から讃美歌、サウンド・オブ・ミュージックから、R・シュトラウスの「明日!」まで、さまざまなジャンルの曲が歌われているが、これらはいつも彼女の母が口ずさんでいたメロディだという。タイトルになっている「スマイル」はチャプリンの映画、「モダン・タイムズ」のテーマ曲。いつも身近にあるなつかしい曲が集められており、幸田浩子の母への熱い想いが伝わってくるような、やさしいアルバムだ。