交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
シューベルト:交響曲第8番「ザ・グレイト」
クラウディオ・アバド(指揮)
モーツァルト管弦楽団
(ユニバーサル)UCCG-1702 3024円
敬愛するアバドの意図を表現し、音楽する喜びにあふれる
2011年のライヴ録音。アバドの晩年の演奏だが、老いの影は微塵もなく、音楽は生気に富んでいる。アバドが設立したモーツァルト管弦楽団はシューベルトにはやや小ぶりの編成で、個々の声部の動きが手に取るようにわかる。楽員たちは全身全霊をもって敬愛するマエストロの意図を表現。適度の自発性をもってアンサンブルを構築しているので、窮屈な印象もなく、音楽する喜びが随所にあふれている。そこではヴォルフラム・クリストをはじめとする名手の存在も大きい。
ハイドン:チェロ協奏曲第1番&第2番
●アザラシヴィリ:チェロ協奏曲
マキシミリアン・ホルヌング(チェロ)
アントネッロ・マナコルダ(指揮)
カンマーアカデミー・ポツダム
(ソニー)SICC-30230 2808円
紡ぎ出されるニュアンスの豊かさに舌を巻くハイドン
ホルヌングは1986年、アウグスブルク生まれ。ゲリンガスらに師事、2009年から13年までバイエルン放送交響楽団の首席チェリストをつとめたのち、ソロ活動に入った。ハイドンの協奏曲はピリオド奏法を強く意識した演奏で、モダン楽器の表現の可能性を突き詰めた感がある。紡ぎ出されるニュアンスの豊かさには舌を巻くばかり。ジョージア出身のアザラシヴィリ(1936~)の協奏曲は、静謐な響きとダイナミックな表現が好対照をなす聴き応えのある作品。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
リスト:ピアノ作品集
●リスト:ハンガリー狂詩曲第2番/コンソレーション 第3番/オーベルマンの谷( 「巡礼の年 第1年 スイス」より)/メフィスト・ワルツ第1番「村の居酒屋での踊り」/愛の夢第3番、他
若林顕(ピアノ)
(オクタヴィア)OVCT-00114 3456円
(SACDハイブリッド)
技巧と表現と音楽性すべてに説得力ある演奏
今年50歳を迎えるという若林顕が、リストの作品で記念碑的なアルバムを完成させた。彼はヴィルトゥオーゾ・タイプのピアニストとして知られ、ここに聴く作品もまさに技巧と表現と音楽性などすべての面において説得力のある演奏となっている。とりわけ重量感のある肉厚な響きと深い打鍵、作品全体を俯瞰する大きな目が特徴で、リストの神髄に迫る。エリーザベト王妃国際コンクール入賞時から聴き続けている私は、実に感慨深い。
DUO 荘村清志&福田進一
●モリコーネ:ニュー・シネマ・パラダイス●ファリャ:スペイン舞曲−オペラ「はかなき人生」より●マイヤース:カヴァティーナ●アルビノーニ:アダージョ、他
荘村清志、福田進一(ギター)
(コロムビア)COCQ-85265 3240円
2人の異なる個性が刺激に満ちた音の対話
ギター好きの私がいま毎日のように聴いているのが、荘村清志と福田進一のギター・デュオ。Hakujuホールで行われている「ギター・フェスタ」の10周年を記念するアルバムで、両者の異なる個性が刺激に満ちた音の対話を生み、聴き手の心に濃密な語りを送り込む。ファジル・サイ、ローラン・ディアンス、久石譲の委嘱作品3曲も2人の個性の違いを際立たせるように書かれ、聴き応え十分。舞台を前に聴いているような臨場感あふれる録音。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
ベッリーニ:歌劇「清教徒」
マリア・カラス(エルヴィーラ)
ジュゼッペ・ディ・ステーファノ(アルトゥーロ)
ローランド・パネライ(リッカルド)
ニコラ・ロッシ=レメーニ(ジョルジョ)、ほか
トゥリオ・セラフィン(指揮)
ミラノ・スカラ座管&合唱団
(ワーナー)WPCS-13160/1 4860円
(SACDハイブリッド、2CD)、EMI原盤
SACDとしてよみがえったカラス絶頂期のベルカント・オペラ
かつてEMIで出ていたカラスのオペラ・シリーズ。リマスター音源によるSACDハイブリッド仕様で、6月に4タイトル発売された。この曲はEMIスタジオ録音第1弾となる「ルチア」に続き、1カ月後の1953年3月に録音された。まさにカラス絶頂期の貴重な録音。エルヴィーラ役を歌うカラスはのびやかに高音を響かせ、相手役のステファノも目の眩むような高音を難なく出す。パネライ、ロッシ=レメーニと歌手も揃い、男声二重唱も見事。「狂乱の場」も圧巻だ。