交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ベートーヴェン:交響曲第9番「合唱」
三宅理恵(ソプラノ)
藤村実穂子(メゾ・ソプラノ)
福井敬(テノール)
マルクス・アイヒェ(バリトン)
小澤征爾(指揮)
水戸室内管弦楽団、東京オペラシンガーズ
(ユニバーサル)UCCD-1468 3240円
録音:2017年
小澤が真の円熟の境地に達しているのを実感
2017年10月に行われた水戸室内管の第100回定期演奏会から。当日、小澤が指揮したのは後半の2つの楽章のみだが、後にセッション録音で加えた前半2楽章を加えて商品化された。小澤の「第九」の録音は15年ぶりだというが、ディスクで聴く限り無駄な力が抜け、この指揮者が真の円熟の境地に達しているのが実感される。オーケストラは敬愛するマエストロの指示に機敏に反応し、室内管ならではの軽妙さも併せ持った説得力のある演奏を実現している。
ブラームス:交響曲第3番、第4番
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
ドイツ・カンマーフィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-10269 3240円
(SACDハイブリッド)
録音:2016、17年
重厚なイメージを覆し極めて雄弁な効果を発揮
パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルによるブラームス交響曲全集の完結篇。重厚なイメージを根底から覆す解釈は今回もきわめて雄弁な効果を発揮している。ブラームス時代の編成を踏まえたオーケストラは楽譜の細部まで忠実に表現し、過去の作曲家から受けた影響とこの作曲家の革新性を余すところなく描き出す。憂愁の味わいと清新な息吹をあわせ持つ音楽はきわめて魅力的だ。生命力に富んだ語り口もこのコンビならではである。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ドビュッシー:喜びの島、他
●ドビュッシー:喜びの島/ 映像第1集/映像第2集/ロマンティックなワルツ/ダンス●モンポウ:「風景」〜泉と鐘/湖●ヒナステラ:アルゼンチン舞曲集〜優雅な乙女の踊り●ピアソラ:天使のミロンガ
コレット・マゼ(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC-5941
3024円
シンプルで心に響き、生き方を考えさせてくれる
1914年パリ生まれのコレット・マゼのピアノは、瞬時にコルトー時代へと聴き手を運ぶ。彼女は4歳からピアノを始め(いまやピアノ歴100年!)、アルフレッド・コルトーやナディア・ブーランジェに師事した。演奏はひたむきに音楽と向き合ってきた人生を映し出し、感慨深い。演奏を聴きながら、エッフェル塔の近くの自宅に取材に行きたいという思いが募る。なんというシンプルで心に響く演奏だろうか、生き方を考えさせてくれる貴重な盤。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽評論家
ベンヤミン・アップル─「魂の故郷〜シューベルト→ブリテン歌曲集」
●シューベルト:「至福」/ブラームス:「子守歌」/R.シュトラウス:「万霊節」/ブリテン:「グリーンスリーヴズ」、他、全25曲
ベンヤミン・アップル(バリトン)
ジェームズ・ベイリュー(ピアノ)
(ソニー)SICC-30494
2700円
「さすらい人」がテーマと思われる、よく練られた選曲の歌曲集
ドイツ生まれ、イギリスで学んだ若きバリトン、アップルはディースカウの最後の弟子だという。ソニ−・レーベルからはデビュー・アルバムとなるが、選曲が凝っている。テーマごとに、シューベルト、ブラームス、ヴォルフなどのドイツものを集め、またブリテン、ビショップなどイギリスの作品も。最後はグリーグの「ある夢」。全体を流れるテーマは、さすらい人だろうか。アイデンティティを探し求める若者の孤独な心が、豊かな響きと厚みのある声で歌われる。
現代曲
長木誠司◎音楽評論家
ペンデレツキへのオマージュ
●ペンデレツキ:ラ・フォリア/協奏的二重奏曲/ソナタ第2番/協奏曲第2番「メタモルフォーゼン」
アンネ=ゾフィー・ムター(ヴァイオリン)
ロマン・パトコロ(コントラバス)
ランバート・オーキス(ピアノ)
クシシュトフ・ペンデレツキ(指揮)
ロンドン交響楽団
(ユニバーサル)UCCG-1820/1(2CD)
5000円
凄みと求心力を備えたムターの華麗な技巧
85歳を迎えてなお意気軒昂なペンデレツキと交友歴も長いムターが、その独奏・室内作品を3曲新たに録音し、20年ほど前の録音である《メタモルフォーゼン(ヴァイオリン協奏曲第2番)》を併せて2枚組のアルバムにした。初録音となる変奏曲《ラ・フォリア》をはじめ、コントラバスとのデュオである協奏的二重奏曲、ピアノとのソナタ第2番でも、その華麗な技巧は鬼気迫るほどの凄みと求心力を備えている。楚々として強烈。