新譜CD&DVD vol.75(2019.07)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

シューマン:交響曲全集

●シューマン:交響曲第1~4番
クリスティアン・ティーレマン(指揮)
ドレスデン国立管弦楽団
(ソニー)SICC-30505/6 3240円(2CD)
録音:2018年(ライヴ)

重厚長大で押し出しの強い自らの音楽を示す

 シューマンの交響曲を好んで取り上げるティーレマンが、フィルハーモニア管との全集(1996~2001)から久々に再録音に取り組んだ。首席指揮者を務めるシュターツカペレ・ドレスデンと東京公演を行った際のライヴ。この名門が持つ伝統をありのままに活かし、そこに明確な自己の個性を投影した演奏だ。シューマン解釈は、近年、古典的なたたずまいを尊重したものが多くなっているが、ティーレマンは重厚長大で押し出しの強い自らの音楽を示す。

マーラー:交響曲第3番

サラ・ミンガルド(コントラルト)
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
ケルン・ギュルツェニッヒ管弦楽団
スコラ・ハイデルベルク女声合唱団
ケルン大聖堂児童合唱隊
(キングインターナショナル)KKC-5999 3240円(2CD)
録音:2018年

音楽の細かな構造まで明らかにする知的な解釈

 ロトとケルン・ギュルツェニヒ管によるマーラーの第2弾にあたる。曲は1902年に作曲者自身の指揮でこのオーケストラによって初演された交響曲第3番。壮大な伽藍がらんを思わせるスケール感を求めるのではなく、音楽の細かな構造まで明らかにする知的で多くの発見のある解釈。手兵レ・シエクルとの共同作業で見られた鋭い視点がここでも貫かれている。濃厚なロマン性や大振りな仕草を排し、古典派の視点から再解釈したアプローチといえる。

スメタナ:連作交響詩「わが祖国」(全曲)

●スメタナ:「わが祖国」より「モルダウ」
カレル・アンチェル(指揮)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団(全曲)
トロント交響楽団(「モルダウ」)
(ターラ)TALT-059/60 オープン価格
録音:1968年(全曲)
   69年(「モルダウ」=モノラル録音)

アンチェルの母国への郷愁が感じられるような「モルダウ」

 1950年よりチェコ・フィルの首席を務めていたカレル・アンチェル(1908~73)は、68年のアメリカ滞在中に「チェコ事件」に遭遇、帰国を断念、翌年からカナダのトロント響の首席に就任した。この2枚組には、亡命前の68年のチェコ・フィルとの全曲と翌年のトロント響との「モルダウ」のリハーサルと本番が収録されている。チェコ・フィルとの全曲は、関係が理想的だったことをうかがわせるもの。トロント響のものは、母国への郷愁が感じられるようだ。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

河村尚子 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集① 悲愴&月光

●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番/第4番/第8番「悲愴」/第14番「月光」
河村尚子(ピアノ)
(ソニー)SICC-19041 3240円

創意工夫に満ちた初のベートーヴェン・アルバム

 ドイツを拠点に幅広い活動を展開している河村尚子が、初のベートーヴェン・アルバムをリリース。「悲愴」「月光」という名曲にソナタ第4番と第7番を加え、自身のベートーヴェン観を強烈に打ち出している。いずれのソナタもみずみずしく創意工夫に満ち、古い絵画が修復により誕生当時の美しさを取り戻し、新たな光を帯びるような新鮮さを放つ。とりわけ第4番と第7番が聴きごたえ十分で、各ソナタの奥深い魅力をあぶり出している。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽評論家

ヴェルディ:「レクイエム」

クラッシミラ・ストヤノヴァ(ソプラノ)、マリーナ・プルデンスカヤ(メゾ・ソプラノ)、チャールズ・カストロノーヴォ(テノール)、ゲオルク・ツェッペンフェルト(バス)、クリスティアン・ティーレマン(指揮)、シュターツカペレ・ドレスデン&ドレスデン国立歌劇場合唱団
(キングインターナショナル)PH-16075 オープン価格
※2CD、輸入盤、Profil原盤

ティーレマン&ドレスデンによる迫力ある「レクイエム」ライヴ

 2014年2月13日の追悼公演ライヴ。69年前の1945年2月13日、ドレスデンは連合軍の爆撃を受けて街が破壊され、ゼンパーオーパーも大きな被害を受けた。その同じ日に、平和を願う「レクイエム」のコンサートがティーレマンの指揮で実施された。ソリストはストヤノヴァ、プルデンスカヤ、カストロノーヴォ、ツェッペンフェルトという国際色豊かな豪華顔ぶれ。ティーレマンの指揮は力強くメリハリが効き迫力ある演奏。最後は拍手なく、沈黙で哀悼を表明。

-cd&dvd