新譜CD&DVD vol.76(2019.08)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ブルックナー:交響曲第6番、第9番

●ワーグナー:「パルジファル」前奏曲、ジークフリート牧歌
アンドリス・ネルソンス(指揮)
ライプチヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(ユニバーサル)UCCG-1843/4 3780円
録音:2018年

過度に重過ぎず新時代のブルックナー像を構築

 両者の組み合わせによるシリーズ第4弾。相次いでリリースされるディスクはいずれも水準が高く、ネルソンスが言うところの「この団体の体のDNAの中にブルックナーの音楽が入っている」ことを実感させるとともに、そこにまぎれもない清新な個性を投影させ、新時代のブルックナー像を構築している。作品に向かい合う距離感が抜群で、過度に重過ぎず、しかも作品の中身を鮮やかなタッチで描出。ワーグナーの「パルジファル」前奏曲ほかも秀逸だ。

マーラー:交響曲第9番

●シノーポリ:「コスタンツォ・ポルタ賛歌」より第2曲/
愛の墓3/交響的断章「ルー・サロメ」
ジュゼッペ・シノーポリ、シルヴァン・カンブルラン、ペーター・ルジツカ(指揮)
ドレスデン・シュターツカペレ
(プロフィール)PALT-002/3 オープン価格
録音:1994、97、2004年

マーラーの遺作に真正面から向き合った説得力ある演奏

 1992年から没するまでドレスデン・シュターツカペレの首席指揮者をつとめたシノーポリの97年のライヴ。オーケストラをすっかり掌握したこの鬼才は、マーラーの遺作に真正面から向かい合い、きわめて説得力の大きい演奏を実現している。作品の持ち味を活かしながらも過度に耽美たんび的に陥ることなく、音楽の構造を明確に示した音楽を聴かせる。この名門の音色の美しさにも特筆すべきものがあり、流れもきわめて自然。余白の自作も貴重な録音だ。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

シューベルト・アルバム

●シューベルト:ピアノ・ソナタ第21番/4つの即興曲D899/
歌曲集「白鳥の歌」よりセレナード(リスト編)
カティア・ブニアティシヴィリ(ピアノ)
(ソニー)SICC-30509 2808円

独特なテンポ設定で引き込まれる“心の歌”

 個性的で深い印象をもたらすカティア・ブニアティシヴィリは、録音のたびに新たな面を披露してきた。今回のシューベルトも実に多彩な表現、歌心、情感をたたえたピアニズム。特にテンポ設定が独特で引力が強く、一気に引き込まれていく。即興曲が非常に雄弁で独創的、各曲の個性が際立ち、心の歌を奏でているよう。カティアのピアノは、いずれの作品もその奥にジョージアの舞曲の要素が潜んでいる感じがし、彼女のルーツが垣間見える。

音楽史・バロック

安田和信◎音楽評論家

テレマン:無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア

●テレマン:無伴奏ヴァイオリンのための12のファンタジア第1~12番
川田知子(ヴァイオリン)
(マイスターミュージック)MM-4057 3240円
〈録音:2019年〉

モダン・ヴァイオリンで曲の魅力を十分に引き出す

 テレマンの音楽が持つ多彩な世界を俯瞰ふかんすることのできるこの曲集は、残念なことに、バロック・ヴァイオリン奏者による録音ばかりが目立ってきたが、そのような悲しむべき状況を打破する音盤の登場。ピリオド楽器の単なる模倣とはひと味異なる時代様式に対する鋭敏な感覚と、モダン楽器の利点の間で巧みなバランスを採っている。バロック・ヴァイオリンとは違った形で、曲の魅力を十分に引き出してくれる。素晴らしい仕事だ。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽評論家

シューベルト:歌曲集

●シューベルト:「消滅」「水の上で歌う」「リュートに寄せて」
「竪琴弾きの歌」「夜と夢」、ほか全19曲
ピーター・ピアーズ(テノール)
ベンジャミン・ブリテン(ピアノ)
(キングインターナショナル)SBT-1519 オープン価格
※輸入盤、TESTAMENT原盤

歌詞内容を重視、エモーショナルな表現で感動的なシューベルト

 1959、61、64年に録音されたピアーズのリート・リサイタル。ピアノはベンジャミン・ブリテンだ。ピアーズの歌唱は、曲をドラマティックに伝えるもので、歌詞の内容を重視したエモーショナルな表現だ。数あるシューベルトの歌曲の中から、孤独や夜や死などをテーマにした静かに沈潜する曲を選んでいるのが興味深い。いずれも素晴らしい歌唱だが、とくに「夜と夢」「彼女の墓」「私のゆりかご」が感動的だ。ブリテンのピアノがロマンチックで優しい。

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