交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」
●ショスタコーヴィチ:交響曲第5番
ミヒャエル・ザンデルリンク(指揮)
ドレスデン・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-39009 2700円
録音:2016、17年
作品に真正面に向かった説得力の大きい演奏
ベートーヴェンとショスタコーヴィチの交響曲全曲録音を進行中のミヒャエル・ザンデルリンクとドレスデン・フィルの第3弾。両者の第5番同士の組み合わせは通俗名曲と思われがち。しかし、ミヒャエルの音楽は作品に真正面に向かった説得力の大きいもの。ヴァイオリンを対向配置にしてトランペットをナチュラル管にするのは珍しくないが、音楽そのものが作品の様式を的確に表現している。ショスタコーヴィチも説得力が大きい。
マーラー:交響曲第5番
ポール・パレー(指揮)
デトロイト交響楽団
(Altus)TALT-062 オープン価格
録音:1959年(モノラル)
ユダヤ的な共感とは一線を画す明晰なアプローチ
1951年から62年までデトロイト響の音楽監督をつとめ、黄金時代を現出させたパレーの59年のライヴ。この指揮者については何よりフランス音楽の名解釈者と思われがちだが、このマーラーの録音はそうしたイメージを払拭するものである。1950年代といえば、マーラーの音楽がまだ一般的ではなかった頃。そうした時期にユダヤ的な共感とは一線を画す、明晰なアプローチで説得力の大きな演奏を聴かせている。その先見性は高く評価してよいだろう。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ブラームス:ピアノ五重奏曲
●ブラームス:8つのピアノ小品
ジョフロワ・クトー(ピアノ)
エルメス弦楽四重奏団
(キングインターナショナル/ラ・ドルチェ・ヴォルタ)LDV-61
オープン価格
地味豊かな響きから聴こえるブラームスへの深い愛情
2005年ブラームス国際コンクールで優勝したジョフロワ・クトーは、16年にブラームスのピアノ独奏曲全集をリリース、コンクール覇者としての実力を示した。次いで室内楽全作品録音プロジェクトを開始し、いま勢いのあるエルメス弦楽四重奏団と組み、ピアノ五重奏曲を録音。ここに8つのピアノ小品を加え、特有の滋味豊かな響きを聴かせている。クトーのブラームスへの深い愛情はいずれの作品にも色濃く宿り、作品の内奥へと誘う。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽評論家
「怒りの日」
●グレゴリアン・チャント~怒りの日(第1旋法)/モーツァルト:「レクイエム」から「怒りの日」/ヴェルディ:「レクイエム」から「怒りの日」/ドヴォルザーク:「レクイエム」から「怒りの日」、他全9曲
デニス・ロトエフ(指揮)
チャイコフスキー響
モスクワ放送合唱団、他
(キング)KICC-1486 3240円
レクイエムの中などに使われた「怒りの日」を集めた異色のCD
世の中、なんかヘンな方向に傾いていませんか?世紀末でもないのに。そんな現世に「カツ!」を入れるストレス解消を狙った企画。レクイエムやグレゴリアン・チャントなどカトリック教会で歌われる「怒りの日」を中心に曲が集められた。ほかにその旋律を使ったラフマニノフの狂詩曲やリストの「死の舞踏」なども収録した凝った選曲。2002年の上原彩子の演奏も含まれるが、ほとんどは2019年の新録音。初版?「怒りの日」の片山杜秀氏のエッセイも再録。
輸入盤
鈴木淳史◎音楽評論家
シベリウス:交響曲第1番
ヤニック・ネゼ=セガン(指揮)
モントリオール・メトロポリタン管弦楽団
(Atma)ACD-22452 オープン価格
繊細に移ろう音色を鮮明に出すオーケストラ
今では世界中のメジャー・オーケストラを振るネゼ=セガンだが、地元ケベックの楽団との録音が続いているのはありがたい。この指揮者ならではの繊細に移ろう音色をここまで鮮明に打ち出してくれるのは、このオーケストラだけだから。彼らのシベリウスは、実にしなやか。背景で旋回するように受け渡される弦楽器のフレーズが柔らかに一続きに。悠然とした流れは、終楽章に入ると振幅を広げ、第2主題の再現では濃厚に旋律を歌わせる。