交響曲・管弦楽曲・協奏曲
音楽評論家 岡本稔
ベートーヴェン:交響曲全集
アンドリス・ネルソンス(指揮)ウィーン・フィル カミラ・ナイルンド(ソプラノ)、ガーヒルド・ロンバーガー(アルト)、クラウス・フロリアン・フォークト(テノール)、ゲオルク・ツェッペンフェルト(バス) ウィーン楽友協会合唱団
(ユニヴァーサル)UCCG―40091/5 11000円
ネルソンスがウィーン・フィルの伝統に新たな一石
ベートーヴェン解釈の伝統の担い手として絶対的な存在とされるウィーン・フィルはシュミット=イッセルシュテット以来、名立たる指揮者たちと全集を残している。生誕250周年を迎えるにあたって新全集の指揮者に白羽の矢がたったのはネルソンス。中堅ではひときわ注目される存在だが、楽団との関係はさほど深くない。そうしたなかでオーケストラの伝統を尊重しながらも清新で瑞々しい自らの音楽を語り出し、新たな一石を投じている。
ワーグナー:「タンホイザー」「トリスタンとイゾルデ」
「神々の黄昏」「パルジファル」
「タンホイザー」より序曲とバッカナール(パリ版)/「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲、「愛の死」/「神々の黄昏」より「ジークフリートのラインへの旅」/「ジークフリートの死と葬送行進曲」、他
上岡敏之(指揮)新日本フィル
(オクタヴィア) OVCL―00703 3520円 (SACDハイブリッド)
上岡流を貫き神々しいばかりの「パルジファル」
徹底して上岡流を貫いた個性的なワーグナー。「タンホイザー」序曲とバッカナール(パリ版)も色彩よりも緻密な構成が際立つもの。「トリスタン」でも官能性とは無縁でまるでエッチングを見るような趣がある。「神々の黄昏」でも壮大さよりも構成の美しさを尊重。そうしたアプローチがもっとも成功しているのが「パルジファル」だ。神々しいばかりの表現は日本の団体からはめったに聴けないもの。新日本フィルの充実振りが如実に感じられる。
モーツァルト:協奏交響曲、R.シュトラウス:「ツァラトゥストラはかく語りき」ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)ベルリン・フィル〈ザルツブルク・ライヴ〉
(キングインターナショナル/テスタメント)KKC-6073 2530円
圧倒的な凄みと気迫に満ちたカラヤンの指揮
1970年のザルツブルク音楽祭のライヴ。モーツァルトの協奏交響曲では、コッホ(オーボエ)、ライスター(クラリネット)、ザイフェルト(ホルン)、ピースク(ファゴット)という当時のこの団体の顔とも言うべき演奏家の饗宴が見事。「ツァラトゥストラはかく語りき」にはこの組み合わせによる3つの録音があるが、完成度という点では1973年のセッション録音に一歩譲るものの、ライヴで見せるカラヤンの凄みは真に圧倒的で気迫に満ちている。
室内楽・器楽
音楽評論家 伊熊よし子
ショパン:スケルツォ/即興曲
●ショパン:即興曲第1~4番(幻想即興曲)/演奏会用アレグロ(協奏曲のアレグロ)/スケルツォ第1~4番
藤田真央(ピアノ)
録音:2019年2月11-13日、ワイアストン・リーズ・コンサートホール(英国)
(ナクソス)NYCC-27311 2750円
弱音の美しさ、自然なルバートに注目したい
2019年6月に開催されたチャイコフスキー国際コンクールで第2位という快挙を成し遂げた藤田真央は、リリカルで豊かに歌うピアニズムの持ち主。コンクール前の今年2月にイギリスで録音されたこのショパン・アルバムは、みずみずしさと勢いと作品に対する愛情が横溢し、聴き手を元気にさせてくれる。しかし、彼の美質は弱音の美しさ。陽炎のようなえもいわれぬ弱音は、胸の奥にひたひたと染み込む。自然なルバートにも注目したい。
輸入盤
音楽評論家 鈴木淳史
ハイドン:オラトリオ「天地創造」(ヴラニツキー編弦楽五重奏版)
パンドルフィス・コンソート,フリッツ・フォン・フリードル(朗読)
(Gramola)GRAM―99199 オープン価格(2CD)
オリジナル楽器によるアンサンブルが天衣無縫の味わい
ハイドンの弟子でもあったヴラニツキーの弦楽五重奏への編曲による演奏。冒頭「カオス」から、その響きの妙味に心を奪われる。なんといっても、第1部から第2部にかけての素朴で豊かな民族色あふれる歌の数々がたまらない。オリジナル楽器によるアンサンブルがじつに天衣無縫の味わいをもたらしてくれるからだ。そして、第3部のナイーヴなまでの崇高さ。曲の合間やレチタティーヴォには、ドイツ語による聖書の朗読も挿入される。