交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ブルックナー:交響曲第6番
(ベンヤミン=グンナー・コールス版)
サイモン・ラトル(指揮)
ロンドン交響楽団
(LSO LIVE/キングインターナショナル)KKC-6175 3300円
ロンドン響とともに自在に自らの音楽を語るラトル
2019年1月のライヴ。ベルリン・フィルでもその持ち味を活かしながらも、自らの個性を発揮したラトルだが、故国の名門ロンドン響に転じてからより顕著に自らの音楽を語り出している印象がある。その自在さは特筆に値する。ブルックナーの音楽を語るときにしばしば用いられた重厚長大な語り口とは無縁だが、まぎれもなくオーストリアの作曲家特有のイディオムは表現しつくしている。2015年のベンヤミン=グンナー・コールス版による演奏。
ムソルグスキー(ラヴェル編):「展覧会の絵」
●ラヴェル:ラ・ヴァルス
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)
レ・シエクル
(HARMONIA MUNDI/キングインターナショナル)KKC-6172 3300円
クーセヴィツキー初演当時の楽器を集め、作品の原点を模索
一作ごとにいつも新鮮な驚きをもたらしてくれるロトだが、今回も期待を裏切らない。1922年にクーセヴィツキーがラヴェル編の「展覧会の絵」を初演した頃の楽器を集め、この作品の原点を模索している。モダン楽器による名盤の数々が存在するなか、独自色を強く打ち出した音楽を実現。ガット弦の繊細な音色、古雅な趣をたたえた管楽器のソロは聴きものだ。ロトの音楽は考古学的な興味を惹くことを意図したものではなく、常に作品に忠実である。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
「新しい道」~ベートーヴェン作品集
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第16番/ピアノ・ソナタ第17番「テンペスト」/ピアノ・ソナタ第18番/創作主題による6つの変奏曲 op.34/創作主題による15の変奏とフーガ(エロイカ変奏曲)
アンドレアス・シュタイアー(フォルテピアノ)
(キングインターナショナル/HARMONIA MUNDI)KKC-6166 4200円(2CD)
作曲者の真情を映し出すように演奏するシュタイアー
フォルテピアノの第一人者、アンドレアス・シュタイアーがベートーヴェン生誕250年に世に送り出したのはソナタ3曲と変奏曲2曲の組み合わせ。「ハイリゲンシュタットの遺書」を書いた時期に「新たな試み」を目指して生み出したソナタ作品31の3曲は、まさにベートーヴェンの新機軸が示されたもの。シュタイアーは作曲者の真情を映し出すように演奏。変奏曲も聴き込むほどに新たな発見があり、心が高揚し、作品の奥へと引き込まれる。
さすらい人
●シューベルト:幻想曲《さすらい人》●ベルク:ピアノ・ソナタ 作品1●リスト:ピアノ・ソナタ ロ短調
チョ・ソンジン(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-40097 3080円
ひたむきに作品と対峙している真摯な姿勢
チョ・ソンジンは新譜を発表するごとに大きな成長を示している。今回は難度が高く、互いに関連性のある3曲を選び、またもや大きな飛躍を遂げたチョ・ソンジンを披露している。全編にのびやかで自由闊達、雄弁な歌心とドラマ性が息づいているが、その根底には作品に深く共鳴したピアニストの熱き心が潜み、ひたむきに作品と対峙している真摯な姿勢に聴き手も胸が熱くなる。とりわけベルクが印象深く、陶酔的な緊迫感が心をとらえる。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽評論家
ワーグナー:楽劇「ワルキューレ」
スチュアート・スケルトン(ジークムント)、エミリー・マギー(ジークリンデ)、アイン・アンガー(フンディンク)、ジョン・ランドグレン(ヴォータン)、ニーナ・シュテンメ(ブリュンヒルデ)、サラ・コノリー(フリッカ)、ほか
アントニオ・パッパーノ(指揮)、コヴェント・ガーデン王立歌劇場管、キース・ウォーナー(演出)
(ナクソス)NYDX-50080〈BD〉 6600円
※輸入品、Opus Arte原盤、日本語解説・字幕付き
人間愛に焦点を当てた感動的な舞台のウォーナー演出
2018年10月英国ロイヤル・オペラのライヴ。ウォーナーの演出は05年にプレミエを迎えた舞台。2001年から上演されたトウキョー・リングのポップな演出と異なり、古典に還った舞台だが、動作や表情などに細やかな配慮がなされた、ヒューマニティー=人間愛に焦点を当てた感動的な演出。シュテンメのブリュンヒルデが声の力と表現力で圧倒的だが、ジークリンデ役のマギーも熱演。スケルトン、ランドグレンと歌手も揃った。パッパーノの叙情的な演奏が熱い。