新譜CD&DVD vol.90(2020.10)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ショスタコーヴィチ:交響曲第8番

トゥガン・ソヒエフ(指揮)
トゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団
(ワーナー)WPCS-13832 3300円(SACDハイブリッド)

常に緻密で知的なアプローチで音楽を構築

 2008年からトゥールーズ・キャピトル国立管の音楽監督をつとめるソヒエフによるショスタコーヴィチ。彼の出身地、北オセチアの首都に縁の深い指揮者といえば、ゲルギエフの名前がすぐに思い浮かぶが、芸風は対照的。重厚で、時に荒々しい筆致で雄こんな音楽を奏でるゲルギエフに対し、ソヒエフは常に緻密で、ある意味、知的なアプローチで音楽を構築する。オペラの経験も豊富な彼は歌心も豊かで包容力は大きい。洗練された音楽が印象的。

シューベルト:交響曲第9(8)番「ザ・グレート」

ファビオ・ルイジ(指揮)
フィルハーモニア・チューリッヒ
(キングインターナショナル)KKC-6151 3300円

淡いロマン性をみずみずしいタッチで描き出す

 2012年から20年までチューリッヒ歌劇場の音楽総監督をつとめたルイジの置き土産。歌劇場のオーケストラをシンフォニーも自在にこなすように鍛錬したルイジの個性がいかんなく発揮されている。作為的なところはみじんもなく、極めて音楽に忠実で、淡いロマン性をみずみずしいタッチで描き出す。純度の高い響きはそうした彼の表現にぴったり。ピリオド・アプローチを強く意識することはないが、すっきりと描き出された世界は魅力的だ。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

シューベルト:八重奏曲

モディリアーニ弦楽四重奏団
ザビーネ・マイヤー(クラリネット)
ブルーノ・シュナイダー(ホルン)
ダグ・イェンセン(ファゴット)
クヌート・エリック・サンドクイスト(コントラバス)
(キングインターナショナル/Mirare)KKC-6230 3300円

息をのむような発見と新鮮な驚きに満ち、アンサンブルの妙を堪能

 八重奏曲はクラリネットを愛するフェルナント・トロイヤー伯爵の委嘱に応えて着手され、構成は弦楽器と管楽器。シューベルト特有の歌謡性に富み、明朗でおだやかな曲想は友人たちと楽しんでいた室内楽の楽しさが映し出されている。モディリアーニ弦楽四重奏団とザビーネ・マイヤーをはじめ名手が結集したこの録音、時折息をのむような発見と新鮮な驚きに満ち、アンサンブルの妙が堪能できる。特に第2、4楽章のアンダンテが美麗だ。

マイ・ベートーヴェン

●シュタットフェルトベートーヴェンのスケッチに基づく幻想曲●ピアノ・ソナタWoO51第1楽章/ディアベリ変奏曲より第31変奏●シュタットフェルト編曲:エロイカ・ダンス(交響曲第3番「英雄」ピアノ版)/パストラーレ・ソング(リスト編曲ピアノによる「田園」からのコラージュ)、他
マルティン・シュタットフェルト(ピアノ)
(ソニー)SICC-30565 2860円

自身の歩みをベートーヴェンというフィルターを通して表現

シュタットフェルトがベートーヴェン生誕250年を記念して録音したのは、自身の歩みをベートーヴェンというフィルターを通して表現したもの。ボンのベートーヴェン・ハウスから依頼されて作った作曲家の「スケッチ断片による幻想曲」から始まり、思い出にまつわる曲を奏でる。これは子ども向けのラジオ朗読劇から音楽を取り出した録音。初期のソナタやシュタットフェルトの編曲などが含まれ、絵本を開いていくようなワクワク感がある。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽評論家

「私は勝つ~ピョートル・ベチャワ イタリア・オペラ・アリア集」

●プッチーニ:歌劇「トスカ」より「妙なる調和」「星は光りぬ」、ほか全18曲
ピョートル・ベチャワ(テノール)
マルコ・ボエミ(指揮)
バレンシア自治州管、ほか
(キングインターナショナル)PTC-5186733 オープン価格
※輸入盤、PENTATONE原盤

声が熟成したテノールがヴェリズモに挑戦

 ベチャワは安定した歌唱と正統派リリコの声質と歌い方で、世界で最も活躍しているテノールだろう。2018年にはワーグナー歌手としてバイロイト音楽祭にもデビューした。その彼が満を持してチャレンジしたのが、この1枚。これまで慎重にリリコのレパートリーを守って来た彼だが、ワーグナー・デビューをきっかけに、より強い表現力が要求されるスピントの分野に踏み出したのだ。彼も50歳を過ぎ、声も熟成し、表現力もアップ。ヴェリズモ・オペラでの活躍が期待される。

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