新譜CD&DVD vol.94(2021.02)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ベルリン・フィル&キリル・ペトレンコ

●ベートーヴェン:交響曲第7番/交響曲第9番「合唱」
●チャイコフスキー:交響曲第5番/交響曲第6番「悲愴」
●フランツ・シュミット:交響曲第4番、他
(キングインターナショナル)KKC-9600 14300円(5CD+2BD)

作品の持ち味をありのままに引き出し、格調高い語り口で表現

 ペトレンコとベルリン・フィルによる初のボックス。チャイコフスキーの「悲愴」のみ、既出。ベルリン・フィルに就任前には、マイナーな作曲家の隠れた名作のディスクが多かったペトレンコだが、ここに収録された作品の大多数は名曲中の名曲。作品の持ち味をありのままに引き出し、格調高い語り口で表現する流儀は一貫している。オーケストラの素晴らしさは改めて言うまでもなく、現代の演奏芸術の一つの極限の姿がここにある。

R.シュトラウス:歌劇「インテルメッツォ」から4つの交響的間奏曲、
ブラームス:交響曲第4番、ほか

●ブラームス:ハンガリー舞曲第5番(アンコール)
マリス・ヤンソンス(指揮) バイエルン放送響
(ナクソス)NYCX-10174 2750円

心に染み入るマリス・ヤンソンス最後の演奏会ライヴ

 2019年11月8日にニューヨークのカーネギー・ホールで行われたマリス・ヤンソンス最後の演奏会のライヴ。R.シュトラウスの歌劇「インテルメッツォ」の交響的間奏曲はミュンヘンのオーケストラの温かい響きの持ち味を活かした演奏。白眉はブラームスの交響曲第4番。マエストロの辞世の句となった音楽には、心に染み入るばかりの枯淡の味わいが満ちあふれ、楽員たちの敬愛する指揮者の解釈の隅々まで表現しつくそうとする意志が如実に感じられる。

ブラームス:交響曲第1番、悲劇的序曲

ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(キングインターナショナル)KKC-6269 3300円

スケール大きく伝統あるオーケストラの響きを活かす

 現役最年長の指揮者ブロムシュテットによる2019年のライヴ。壮年期の演奏では、音楽に対する誠実さは如実に伝わってきたものの、その端正な音楽にはやや求心力が乏しい印象もあったこの指揮者だが、近年は音楽に深い味わいが増し、スケールも一段と大きくなった。この演奏にもそれが如実に表れており、伝統あるオーケストラの響きをありのままにかしながら、ライヴ特有の高揚感にも満ち溢れた至芸ともいうべき音楽を聴かせている。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

サン=サーンス:ソナタとトリオ

●サン=サーンス:ヴァイオリン・ソナタ第1番/チェロ・ソナタ第1番/ピアノ三重奏曲第2番
ルノー・カピュソン(ヴァイオリン)
エドガー・モロー(チェロ)
ベルトラン・シャマユ(ピアノ)
(ワーナー)9029516710 オープン価格

フランスの名手3人が没後100年のサン=サーンスを

 フランスを代表するカピュソン、モロー、シャマユが2021年のサン=サーンス没後100年のアニバーサリーイヤーに送り出すのは、あまり演奏される機会のない珍しいソナタとトリオ。こういう記念の年でなければ聴くことができない貴重な作品を3人の実力派が自由闊達かったつ、生き生きとした演奏で披露し、作品のよさを知らしめる。祖国の名作曲家の作品をもっと知ってほしいという前向きな気概に満ち、聴き手をサン=サーンスへと近づける。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番、交響曲第7番

ラハフ・シャニ(ピアノ&指揮)
ロッテルダム・フィルハーモニー管弦楽団
(Warner Classics)9029517768 オープン価格

バレンボイム譲りの力強いコントロール力

 バレンボイムの薫陶を受けたイスラエル生まれの若手指揮者兼ピアニスト。そのパフォーマンスも、師匠譲りなのか、コントロール力が強い。ピアノ協奏曲では随所で大見得を切りつつ、ぐいぐいと全体をリード。速いパッセージの粒ぞろいの良さとダイナミックなピアニズム。交響曲でも、ピリオドの影響一切なく、押し出しの強いサウンドを披露。フレーズの流れるようなつなぎも魅力だ。近年珍しくなりつつあるギラついたベートーヴェン。

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