交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ストラヴィンスキー:バレエ「ペトルーシュカ」、
スヴェトラーノフ:詩曲(オイストラフの思い出に)
ヴァディム・レーピン(ヴァイオリン)エフゲニ・スヴェトラーノフ(指揮)
フランス放送フィル
(ワーナー)5419714542 オープン価格
指揮者の意図をくみ、スケールの大きな「ペトルーシュカ」
1999年のライヴの「ペトルーシュカ」は、以前に発売されながらも権利関係の問題から回収手続きが取られ、「幻の名演」となっていたもの。フランスのオーケストラが指揮者の意図を完全に汲み、共感豊かにスケールの大きな演奏を行っている。響きが透明で明晰なところにも惹かれる。2001年収録のスヴェトラーノフ作品はオイストラフの思い出に捧げられたもの。レーピンがソロをつとめる。憂愁の色濃い美しい旋律が印象的である。
ベ―トーヴェン:ピアノ協奏曲第3&1番
クリスティアン・ベザイデンホウト(フォルテピアノ)
パブロ・エラス=カサド(指揮)フライブルク・バロック・オーケストラ
(harmonia mundi/キングインターナショナル)KKC6524
即興性を発揮し、新鮮な瞬間を織りなすベザイデンホウト
ベザイデンホウトによるベートーヴェンの協奏曲全集の完結編。1824年製作のコンラート・グラーフの楽器のコピーを使用。ソロは随所で即興性を発揮し、今まで聴いたことがないような新鮮な瞬間を織りなす。エラス=カサド指揮のオーケストラのニュアンスの豊かにも驚かされる。ピリオド楽器の使用が目新しかった時期は完全に終わり、作品のスタイルに即した内容表現が問われるなか、明確な一つの回答を示したものといえるだろう。
ウラディーミル・アシュケナージ ベスト
●ショパン:ワルツ第1番《華麗なる大円舞曲》/夜想曲第2番/マズルカ第5番/練習曲第5番《黒鍵》●バッハ:平均律クラヴィーア曲集第1巻第1番:プレリュード●モーツァルト:2台のピアノのためのソナタから第1楽章
●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第21番3《ワルトシュタイン》から 第1楽章、他
ウラディーミル・アシュケナージ(ピアノ)
(ユニバーサル) UCCD-41071/2 2420円(2CD)
50年以上にわたるアシュケナージの軌跡が凝縮
2020年1月にコンサート活動から引退を表明したアシュケナージ。彼は1963年からデッカ・レーベルの専属アーティストとして数多くの録音を残した。7月6日は85歳の誕生日。これを記念してショパン、バッハ、ベートーヴェン、ラフマニノフ、プロコフィエフなどの作品を収録した2枚組が登場。ここには50年以上にわたるアシュケナージの軌跡が凝縮している。特にキャリアの最後の時期に取り組んでいたバッハ「イタリア協奏曲」が印象深い。
J.S.バッハ:無伴奏チェロ組曲全曲
●バッハ:無伴奏チェロ組曲第1~6番
ブリュノ・フィリップ(チェロ)
(キングインターナショナル)KKC-6530 4400円(2CD)
崇高さと厳粛さを備え、素朴で自由闊達な弦の響き
多くのチェリストが一度は全曲録音したいと願うバッハ「無伴奏チェロ組曲」。いま注目のフランスの若きチェリスト、ブリュノ・フィリップがその録音に挑戦した。ふだん使用しているスチール弦ではなくガット弦とバロックボウを用い、作曲当時の演奏に近づくべく楽譜を一から見直している。フィリップの弦の響きは崇高さと厳粛さを備え、しかも素朴で自由闊達、とても人間的な響きに富んでいる。新たな指針を示すバッハの誕生である。
ルーツ―マグネシウムのドレスを着た少女たち
●宮城道雄:春の海●ラヴェル:ステファヌ・マラルメの3つの歌
●平野義久:エレジー●サン=サーンス:澄み切った波紋の無い水面に
●チャルデッリ:乱取り組曲,プッチーニの音楽による「バタフライ・エフェクト」、他
アンナ・アステサーノ(ハープ),ヴァレンティーナ・チャルデッリ(コントラバス)
(Da Vinci Classics)C00553 オープン価格
アニメ的な感性が結ぶ日本とヨーロッパの文化
怪しいフォントで「ルーツ」という文字。日本と西洋の文化を織り交ぜつつ、その根源を探るというコンセプトらしい。おなじみ「春の海」から始まり、「デスノート」の音楽などで知られる平野義久の作品(なぜか中間部で「こうもり」引用)も。チャルデッリ自作の「乱取り組曲」は柔道の曲ではなく、芭蕉や国芳の作品にインスパイアされたもの。ラヴェルの歌曲がなかなかいい。コントラバスのハスキーな歌唱性がクローズアップされている。