交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
マーラー:交響曲第9番
サイモン・ラトル(指揮)
バイエルン放送交響楽団
(ナクソス) NYCX-10340 2970円
60代半ば、ラトルのさらなる円熟を鮮やかに示す名盤
2023年よりバイエルン放送響の首席指揮者に就任するラトルが2021年に客演した際のライヴ。ウィーン・フィル(1993)、ベルリン・フィル(2007)に続く3回目の録音となる。いわばラトルの勝負曲ともいえるこの作品で、ここで新たな存在感を示す名盤を見事に実現した。アンサンブルの精度、音色の純度は言うまでもなく申し分ない水準にある。それに60代半ばとなったラトルのさらなる円熟が鮮やかに見て取れる。
グレン・グールド秘蔵ライヴ
●バッハ:ピアノ協奏曲第1番
●ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第5番「皇帝」
●シェーンベルク:ピアノ協奏曲作品42
D・ミトロプーロス(指揮)、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団、他、
J・クリップス(指揮)、バッファロー・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー) SICC-30611 2860円
日本初出を含む、演奏会活動引退前の貴重な協奏曲ライヴ
グールドが演奏会から退く前の3つのライヴ録音を収録。このうち、クリップス指揮のバッファロー・フィルとの「皇帝」(1960)は日本初出。グールドがもっとも敬愛したと言われる指揮者との演奏は、きわめて正攻法の解釈の中に鬼才らしい鋭さも垣間見せる。バッハの協奏曲第1番(1958)とシェーンベルクの協奏曲(1958)はミトロプーロスとの共演。バッハは名解釈と呼ぶにふさわしく、シェーンベルクも説得力が大きい。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽評論家
モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集
●ピアノ・ソナタ第1~18番
藤田真央(ピアノ)
(ソニー)SICC30603/8 10000円 ※6CD
清澄で情感あふれるピアニズムで心温まる
日本人として初めてソニークラシカルとワールドワイド契約を結んだピアニスト、藤田真央がモーツァルトのピアノ・ソナタ全集をリリース。録音は2021年8月から11月にかけてベルリンで行われたが、その年の夏にヴェルビエ音楽祭で全曲演奏を敢行。チャイコフスキー・コンクールで審査員に絶賛されたモーツァルトは、藤田真央の清澄で情感あふれるピアニズムが特徴。全18曲は聴き込むほどに心が温まり、至福の時が過ごせる。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽評論家
ヘンデル:戴冠式アンセム(全4曲)&
デッティンゲン・テ・デウム
エルヴェ・ニケ指揮ル・コンセール・スピリチュエル
(ナクソス)NYCX10331 3300円 ※α原盤、日本語歌詞・解説付き
初演当時に近づけた古楽器アンサンブルのヘンデル
演奏編成を曲が初演された当時に近づけようと試みた、というエルヴェ・ニケの言葉どおり、大編成の古楽器アンサンブルによる録音。華やかで荘厳、圧倒的なサウンドが響き渡る。「戴冠式のアンセム」は1727年のジョージ2世の戴冠式のために作曲された曲。また「デッティンゲン・テ・デウム」は、ジョージ2世の戦勝祝賀のために作曲された。とくに「デッティンゲン」は、力強く晴れやかな曲で、金管楽器が高らかに響く。白沢達生氏による日本語訳と丁寧な解説付き。
輸入盤
鈴木淳史◎音楽評論家
シューベルト:交響曲第7番「未完成」/
交響曲第8番「ザ・グレイト」
ジョルディ・サヴァール(指揮)、ル・コンセール・デ・ナシオン
(Alia Vox)AVSA9950 オープン価格 ※2CD、SACDハイブリッド盤
鮮やかな対比のなかで上から下までとにかく弾み弾む
ベートーヴェン全集が強烈なインパクトを与えたサヴァール。今度はシューベルト、しかもいきなり「未完成」と「グレイト」ときた。鋭いアクセントを伴う音圧強いリズムと、ひなびたアルカイックな響きの木管による強烈なコントラスト。そこに雄弁すぎるティンパニが加わるなど、鮮やかな対比のなかで上から下までとにかく弾み弾む。「未完成」のの深淵へ迫る壮絶さ。「グレイト」では重量感のある響きが躍動しまくって、凄まじい熱気。