新譜CD&DVD vol.119(2023.03)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ハイドン:交響曲第101番《時計》、第103番《太鼓連打》

パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
ドイツ・カンマー・フィルハーモニー・ブレーメン
(ソニー・クラシカル) SICC 10403 3300円

多彩な響きとユーモアが作曲家のイメージを根底から覆す

 P.ヤルヴィと手兵による「ロンドン交響曲集」の第1弾。ハイドンの音楽がこのうえなく多彩な響きをもち、独自の個性を持つことを再認識させてくれる。「古典的」という枠にはめられがちな作品が、実は現代的で刺激的な要素に満ち溢れていることを実感させる。ユーモアに富むところも大きな魅力で、作曲家のイメージを根底から覆すインパクトを持つ。指揮者の指示に機敏に反応するオーケストラの精彩に満ちた響きには心底魅了される。

ブルックナー:交響曲第5番

ジョナサン・ノット(指揮)
東京交響楽団
(オクタヴィア) OVCL00796 3520円

明晰、しなやか、繊細、ノットのブルックナーは一味違う

 快進撃を続けるノット/東響の最新ライヴ。ブルックナーは4曲目となる。この作曲家の演奏といえば、重厚長大な解釈が一般的と思われがちだが、ノットの解釈は一味異なる。作品にふさわしい重量感は備えているものの、決して鈍重な印象を与えることはなく、明晰で構造の見通しが明らかな音楽を聴かせる。オーストリア的な自然の息吹とは若干異なるものの、しなやかな感性を反映させた味わい深いブルックナーだ。繊細な味わいにも富む。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽評論家

ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第28番、第29番

マウリツィオ・ポリーニ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG45068 3080円 ※DG原盤

自由かつ深遠で円熟の境地を示すベートーヴェン

 マウリツィオ・ポリーニが約45年の時を経て再録音したベートーヴェンのピアノ・ソナタ第28番と第29番「ハンマークラヴィーア」は、細部まで神経が張り巡らされ、研ぎ澄まされた演奏。30代に録音した旧盤よりも自由かつ深遠で円熟の境地。とりわけ「ハンマークラヴィーア」の説得力が印象深く、ポリーニが「楽章それぞれが特別です」と語っているように、各楽章が特殊な生命力を放つ。ベートーヴェンの偉大さに近づくことができる録音。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽評論家

ヘンデル:歌劇「ジュリオ・チェーザレ」

べジュン・メータ(ジュリオ・チェーザレ)、
ルイーズ・アルダー(クレオパトラ)ほか
アイヴァー・ボルトン(指揮)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
キース・ウォーナー(演出)
(キングインターナショナル)KKC9755〈BD〉6700円、
KKC9756〈DVD〉6700円 ※輸入盤、UNITEL原盤、日本語字幕・解説付き

歌手陣も達者、映像を巧みに使った多重構造の新鮮な舞台

 最先端の過激舞台が話題のアン・デア・ウィーン劇場、2021年12月のライブ。多くの名演出があるヘンデルの大傑作オペラだが、さすがはキース・ウォーナー。映像を巧みに使い、舞台を現代のエジプト風映画館に設定し、エリザベス・テーラー主演のハリウッド映画のイメージをも織り込んで、多重構造の新鮮な舞台を創り上げた。歌手もベジュン・メータ、ルイーズ・アルダー、クリストフ・デュモーと歌唱・演技ともに達者な豪華顔ぶれ。ボルトン指揮の古楽演奏も聴きもの。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

ルリエ:室内楽と器楽曲集第1集

●ルリエ:日の出/ヴォルガの舟歌/天の女王/ヴァイオリンを横切るフルート/ディテュランボス、ほか
ビルギット・ラムスル(フルート)、ゴットリープ・ヴァリッシュ(ピアノ)、エギディウス・シュトライフ(ヴァイオリン)、ほか
(Toccata Classics)TOCC65 オープン価格

ルリエの斬新なサウンドをアピール

 ロシア・アヴァンギャルドの旗手だったルリエ。亡命後にストラヴィンスキーの影響を受けて新古典的な作品を書いた。このバーゼルでのルリエ音楽祭の録音を聴くと、ストラヴィンスキーより繊細な手法がうかがえる。とりわけ楽器の響きの重ね方が独創的。オーボエとトランペットの響きのなかにコントラルトが加わる「天の女王」や、3つのフルートと打楽器が精妙に重なる「クロノスを讃える葬送試合」の響きの斬新さに驚かされよう。

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