交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ブルックナー:交響曲全集(第1~9番)
クリスティアン・ティーレマン(指揮)
シュターツカペレ・ドレスデン
(C-MAJOR) KKC-9656/64 12650円(9ブルーレイ)
含蓄に富んだ深々とした音色も極めて魅力的
2012年のシュターツカペレ・ドレスデンの首席指揮者に就任初の演奏会の第7番から、19年の第2番までの7年間に収録されたもの。国内初出。ティーレマンとこの名門との足跡をつぶさに終える興味深い映像だ。当初、音楽を的確に掌握しているものの、自我の個性を強く押し出しすぎなところもあったこの指揮者だが、近年ではすっかり円熟を深めている。南ドイツの団体のものとは一味違う、含蓄に富んだ深々とした音色も極めて魅力的だ。
ウィーン・フィル・サマーナイト・コンサート2021
●ラフマニノフ:パガニーニの主題による狂詩曲
●バーンスタイン:「ウエストサイド・ストーリー」から「シンフォニック・ダンス」より、他
イゴール・レヴィット(ピアノ)ダニエル・ハーディング(指揮)
(ソニー)SICC―2234 2860円
ウィーン・フィルの豊かな音楽性をありのままに活かす
コロナ禍で観客を医療、教育関係者に絞っての公演となったが、今年も恒例のシェーンブルンの野外演奏会は開催された。今年のテーマは「遠くへの憧れ」。ヴェルディの序曲に始まり、ラフマニノフ、バーンスタイン、エルガー、ドビュッシー、ホルストの作品が取り上げられた。ハーディングはきわめて誠実な音楽づくりでそれぞれの曲の魅力を明らかにしていく。そこでは、ウィーン・フィルの豊かな音楽性がありのままに活かされている。
コンドラシン/NHK交響楽団 1980年ライヴ集
●リャードフ:交響詩「魔の湖」●ヨハネス・ブラームス:交響曲第4番
●プロコフィエフ:組曲「キージェ中尉」
●ショスタコーヴィチ:舞踏組曲「ボルト」
●チャイコフスキー:交響曲 第1番、他
クリスティーナ・オルティス(ピアノ)キリル・コンドラシン(指揮)
(Altus/タワーレコード)ATKCD-1001/3 オープン価格(3CD)
生涯にただ1度だけNHK交響楽団に客演した際の記録
コンドラシンの没後40年にちなむリリース。1980年に生涯にただ1度だけNHK交響楽団に客演した際の記録。死の前年にあたる。オーケストラが持つ潜在的な能力をフルに発揮させた印象のある演奏ばかり。リャードフ、チャイコフスキー、プロコフィエフといったお国ものばかりでなく、ブラームスの第4番などでも含蓄に富んだ音楽を聴かせている。ショスタコーヴィチの「ボルト」、バルトークのピアノ協奏曲第3番については、今回が初出。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ショパン:夜想曲全集
●ショパン:夜想曲第1~21番
ヤン・リシエツキ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-45019/20 3850円(2CD)
新時代のショパン弾きが成果を発信
リシエツキのショパンは、特有のテンポが存在する。聴き慣れた夜想曲第1番からそのテンポ感と思慮深く洞察力に富むピアニズムが全開、聴き手の心を引き付ける。ショパン・コンクール入賞者ではないが、ポーランド人の両親から受け継いだ血はショパンの音楽へと彼を強烈な引力で引き込む。ワルシャワでショパンの研究を続け、その成果を世界に発信。新時代のショパン弾きの誕生だ。第20番「遺作」も憂いを含む抒情的な表情が秀逸。
エコーズ・オヴ・ライフ
●トリスターノ:イン・ザ・ビギニング・ワズ
●ショパン:24の前奏曲●リゲティ:ムジカ・リチェルカータ第1曲
●ロータ:ワルツ●武満徹:リタニ -マイケル・ヴァイナーの追憶に- 第1曲
●アリス=紗良・オット:ララバイ・トゥ・エターニティ、他
アリス=紗良・オット(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-40130 3850円
前向きに生きようとする強い姿勢が音の向こうに見える
アリス=紗良・オットは、録音のたびに新たな自己表現を提示する。ショパンの前奏曲に彼女の人生を映し出す思い出深い作品を挟み込んだ選曲は、特有のアイデア。通して聴き込むと、病気の治療を懸命に行い、音楽との対峙をより深いものにし、前向きに生きようとする強い姿勢が音の向こうに見える。盟友トリスターノの曲で幕を開け、アリスの編曲作品で幕を閉じる趣向も印象的。アリス自身による曲にまつわるライナーも心に深く刻まれる。