交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」
クリスティアン・ティーレマン(指揮)ウィーン・フィル
(ソニー)SICC-30589 2860円
包容力の大きな名演は音楽芸術の精華にふれる思い
先月、2010年代にシュターツカペレ・ドレスデンを指揮した映像の全集をご紹介したばかりだが、こちらは2024年のブルックナー・イヤーに向けて録音が進行しているウィーン・フィルとのシリーズ3弾。最新録音にはこの指揮者のさらなる円熟ぶりが鮮やかに刻み込まれている。オーケストラの伝統の響きと演奏スタイルを最大限にいかしながら、この上なく自然で、包容力の大きな名演を実現。音楽芸術の精華にふれる思いがする。ハース版を使用。
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ)
アンドリス・ネルソンス、マリス・ヤンソンス、ワレリー・ゲルギエフ、リッカルド・ムーティ(指揮)
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管、バイエルン放送響、ミュンヘン・フィル、ウィーン・フィル、他
(ユニバーサル)UCCG-45032/4 5500円(3CD)
一期一会の意気込みで個性を発揮させたオーケストラ
ベートーヴェンの生誕250年を記念して2019/20年シーズンにウィーン楽友協会が開催した演奏会ライヴ。ブッフビンダーの独奏にネルソンス、ヤンソンス、ゲルギエフ、ティーレマンがそれぞれの手兵と、そしてムーティはウィーン・フィルを指揮した。ピアノのすばらしさは改めて述べる必要はないだろう。楽都の演奏スタイルを今日に受け継ぎ、発展させた名手ならでは。一期一会の意気込みで個性を発揮させた5つのオーケストラも真に素晴らしい。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
12のストラディヴァリウス
●ファリャ/クライスラー編:スペイン舞曲●スーク/愛の歌 ●C.シューマン:3つのロマンス 作品22 第1番●R.シューマン:幻想小曲集 作品73●ヴュータン:3つの無言歌 作品7 第3曲:失望●チャイコフスキー/アウアー編:歌劇《エフゲニー・オネーギン》から レンスキーのアリア●シマノフスキ:《神話》作品30 第1曲:アレトゥーサの泉、他
ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)、アントニオ・パッパーノ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCD-45001 3080円
ストラディヴァリウスの響きの違いを克明に描き出す
取材でクレモナを訪れた際、さまざまなストラディヴァリウスの音を聴く機会に恵まれたが、ジャニーヌ・ヤンセンの新譜はまさにその響きの違いを克明に描き出している。選曲の妙も味わえ、楽器の多様性に驚かされる。ストラッドはあまりにも個性が強くヴァイオリニストは苦労するというが、ヤンセンはいずれの楽器にも自然体で向き合い、それぞれよさを引き出している。クレモナの街を思い出し、心が揺れる。パッパーノのピアノが秀逸!!
イゴール・レヴィット:オン・DSCH
● ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ●スティーヴンソン:DSCHによるパッサカリア
イゴール・レヴィット(ピアノ)
(ソニー)SICC-30584/6 5500円(3CD)
作品を俯瞰する目と真実を探求する鋭利な精神
レヴィットの新譜は常に衝撃を招く。ショスタコーヴィチと、彼を敬愛してやまないスコットランドの作曲家ロナルド・スティーヴンソンの作品を収録した本作は、ショスタコーヴィチの新たな発見を促す。レヴィットの演奏は重量級の作品の全体を俯瞰する目と真実を探求する鋭利な精神、作品の美を浮き彫りにするピアニストとしての使命に貫かれ、圧倒的な存在感を放つ。タチアナ・ニコラーエワ以来、作品の内奥に切り込んだ演奏である。
輸入盤
鈴木淳史◎音楽評論家
アルバニアの音のロマンティシズム
●ハラピ:ロマンス●パパリスト:ユモレスカ●ペチ:薔薇のワルツ●ララ:バラード第2番●ザデヤ:主題と変奏●イブラヒミ:トッカータ●ディズダリ:ピアノ三重奏曲第1番、他
エニ・ディブラ・ホフマン(ピアノ)エリオーナ・ヤホ(ヴァイオリン)マルセラ・ビネリ(チェロ)
(Gallo)GALLO-1623 オープン価格
20世紀アルバニアの作曲家による民族色も濃いロマン派音楽
アルバニアの作曲家のピアノ曲と室内楽曲を収録。20世紀初頭から中盤に生まれた作曲家の作品は、社会主義リアリズムの影響が強く、後期ロマン派作風に民族色も色濃く表れる。ラピの「ロマンス」はまるでイージーリスニングのように始まるが、中間部は民謡風。ザデヤの「主題と変奏」は、短調の物悲しい、どこか東洋風の民謡調の変奏が続き、やっと長調に転じるのはコーダ。ディズダリのピアノ三重奏曲のスケルツォ部は、ショスタコ風。