新譜CD&DVD vol.107(2022.03)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

サン=サーンス:交響曲全集

●サン=サーンス:交響曲イ長調/交響曲第1番/交響曲「ローマ」/交響曲第2番/交響曲第3番「オルガン付き」
クリスティアン・マチェラル(指揮)フランス国立管弦楽団 オリヴィエ・ラトリー(オルガン)
(Warner Classics)9029653343 オープン価格(3CD)

ルーマニアの新鋭が音楽監督に就任しての初録音

 1980年ルーマニア生まれの新鋭マチュラル2020/2021シーズンから、フランス国立管弦楽団の音楽監督に就任したばかり。その初録音となったのは、サン=サーンスの没後100年にちなむ交響曲全集だ。交響曲イ長調は15歳の少年の作とはにわかには信じがたい多彩な要素と生気に満ちあふれた作品。第1番、第2番、交響曲「ローマ」でも才人の筆のえを感じさせる。第3番「オルガン付き」も数多ある名盤の一角にしっかりと組み込まれるに違いない。

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」

アダム・フィッシャー(指揮)デュッセルドルフ交響楽団
(CAvi Music/東京エム・プラス) 8553490 2370円

余剰な要素をそぎ取った見事なフォルムの音楽

 アダム・フィッシャーとデュッセルドルフ響によるマーラー・シリーズの最終編。先月、ご紹介したフェルツとドルトムント・フィルのマーラー全集も充実したものだったが、こちらもそれに勝るとも劣らない出来。ライン・ドイツオペラのピットをつとめる団体だけに、独自の歌心を持っているのがここでも実感される。ハイドン解釈では折り紙付きのフィッシャーは、マーラーでも余剰な要素をそぎ取った見事なフォルムの音楽を聴かせる。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

ブルース・リウ 第18回ショパン・コンクール優勝者ライヴ

●ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ/マズルカ第22番/マズルカ第23番/マズルカ第24番/マズルカ第25番/練習曲第4番/ モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》の「お手をどうぞ」による変奏曲、他
ブルース・リウ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1890 3080円

これまでと一線を画す明朗で率直で大らかなショパン

 ブルース・リウはショパン・コンクールの第3次予選で、モーツァルトの《ドン・ジョヴァンニ》の「お手をどうぞ」による変奏曲を選曲し、圧倒的な演奏で審査員と聴衆の支持を得た。11月の来日公演でも披露したが、「こんな名曲だったんだ」と新たな感動を呼び起こす演奏だった。明朗で率直で大らかなショパンはこれまでのショパン像とは一線を画すもの。このコンクール・ライヴにも同変奏曲は収録。新時代のショパン弾きの誕生を喜びたい。

現代曲

長木誠司◎音楽評論家

ミェチスワフ・ヴァインベルク:歌劇《パサジェルカ - 女旅行者》 Op.97

リーザ:シャミリア・カイザー マルタ:ナージャ・シュテファノフ
ヴァルター:ヴィル・ハルトマン タテウス:マルクス・ブッター
グラーツ・フィル ローランド・クルティヒ(指揮)、他
(Capriccio)C5455 オープン価格(2CD)

ソ連崩壊後にやっと初演されたオペラのライヴ録音

 ソ連崩壊後にやっと初演されたポーランド出身作曲家によるオペラ。戦時中ナチの強制収容所で働き、今は外交官夫人としてブラジル赴任の船上にある女性が、かつてガス室送りになった女性とうり二つの女性に船上で会い、良心の呵責かしゃくさいなまれながら錯乱していく物語。ブレゲンツ音楽祭でのクルレンツィス指揮による再演で再評価された作品の、昨年1月グラーツ歌劇場でのドイツ語上演ライヴ。実演の緊張感が伝わってくる秀逸な舞台録音。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

シューベルト:作品集

●シューベルト:ピアノ・ソナタ第15番「レリーク」/ピアノ・ソナタ第21番
ジャン=マルク・ルイサダ(ピアノ)
(La Dolce Volta)LDV-93 オープン価格

揺れるように変化していくルイサダのニュアンス

 ルイサダの弾くシューベルトは、力強くも柔らかい響きで、ニュアンスが揺れるように移ろう。絶妙な両手のバランスが作り出す、広がりをもつ和音。さらに、埋もれがちなリズムを前面に出し、ぐっと立体的に迫る。第15番は、意外にもドラマティックだ。過度に感傷的にもならず、和声感を際立たす。第21番は、両端楽章の安定性・完成度は見事ながら、緩徐楽章の脱力していくトーンや、第3楽章全体に漂う浮遊感が印象に残った。

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