新譜CD&DVD vol.109(2022.05)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ブルックナー:交響曲第2番

クリスティアン・ティーレマン(指揮)ウィーン・フィル
(ソニー)SICC-30596 2860円

弦楽器の細やかなニュアンス、管楽器の含蓄に富んだ響き

 この組み合わせによる交響曲全集第4弾。1877年第2稿、キャラガン校訂版による。2019年4月のライヴ。ティーレマンが着実に円熟の階段を上りつつあることを実感させる演奏といえるだろう。以前の彼に見られた過剰な自己主張はなくなり、ウィーン・フィルの持ち味をありのままに活かしながらブルックナーの初期交響曲からみずみずしい味わいを引き出している。弦楽器の細やかなニュアンス、管楽器の含蓄に富んだ響きには心底魅了される。

サン=サーンス:交響曲第3番「オルガン付き」、
ピアノ協奏曲第4番

ダニエル・ロト(オルガン)ジャン=フランソワ・エッセール(ピアノ)
フランソワ=グザヴィエ・ロト(指揮)レ・シエクル
(harmonia mundi/キングインターナショナル) KKC-6465 3300円

内面的で軽妙洒脱な味わいを尊重するロトの解釈

 作曲者の没後100年にちなんで、ロトとその手兵による2010年の録音が国内盤でリリースされた。「オルガン付き」は曲が持つ一面である壮麗さを強調した演奏が広く流布している印象があるが、ロトの解釈はそれを過度に際立たせることなく、内面的で軽妙洒脱な味わいを尊重したもの。オルガンの選定にもこだわり、サン=シュルピス教会の作曲者の生きた時代の楽器を使用。ピリオド楽器のオーケストラと一体になった雅びな音世界を形成する。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集

●モーツァルト:ピアノ・ソナタ第1~18番
エリザーベト・レオンスカヤ(ピアノ)
(ワーナー)9029645782 オープン価格(6CD)

知性に裏付けられた特有の奏法で内面を描き出す

 エリザーベト・レオンスカヤはロシア・ピアニズムの継承者で、流派のひとつ、コンスタンチン・イグムーノフの弟子のひとりヤコブ・ミルシテインに師事した。その教育と伝統はレオンスカヤに確実に受け継がれ、演奏は深々とした打鍵、絶妙のペダリング、うたうような旋律の表現、重厚で壮大で深遠な響きと、えもいわれぬかぐわしいエレガンスを内包している。ここでは知性に裏付けられた特有の奏法でモーツァルトの内面を描き出す。愛聴盤が誕生!

ノスタルジア~クライスラー ヴァイオリン小品集

フリッツ・クライスラー:プニャーニのスタイルによるテンポ・ディ・メヌエット/オペレッタ《オペラ座舞踏会》から「真夜中の鐘」(ホイベルガー)/
ロマンス(シューマン)/我が母の教え給いし歌(ドヴォルザーク)/
ウィーン風小行進曲、他
鷲見恵理子(ヴァイオリン)、エミィ・トドロキ・シュワルツ(ピアノ)
(キングインターナショナル)KKC-086 3300円

聴き手をクライスラーの温かく血の通った音楽世界へと誘う

 ミラノやウィーンで演奏し、その土地の空気を全身にまとい、それを音楽で表現したいと考えている鷲見すみ恵理子が、愛するクライスラーのアルバムを作り上げた。「プニャーニのスタイルによる~」で幕開けし、まさに聴き手をクライスラーの温かく血の通った音楽世界へと誘う。次々に登場する名曲がピアノとともに粋で気高くぬくもりをもって奏でられ、心身が浄化されるよう。クライスラーに包まれ、至福の時が味わえ、癒やし効果も有する。

J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲

ジャン・ロンドー(チェンバロ)
(ワーナー)9029650811 オープン曲(2CD)

聴くたびに新たな発見を見出す「ゴルトベルク」

 新譜をリリースするたびにチェンバロへの強い愛と造詣、表現力の深さ、古典に根差しながらも斬新性を探求する姿勢を崩さないジャン・ロンドーが、満を持してバッハの「ゴルトベルク変奏曲」を完成させた。冒頭のアリアのゆったりしたテンポから、ロンドーの世界へと一気に引き込まれる。装飾音も秀逸。1740年代に印刷された楽譜を参考にし、細部に徹底的なこだわりを見せる。聴くたびに新たな発見を見出す、「ゴルトベルク」の再発見の盤。

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