新譜CD&DVD vol.11(2014.3)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」(ハース版)

ギュンター・ヴァント(指揮)
北ドイツ放送交響楽団
(キング)KICC-1121 1890円

大伽藍を構築するようなヴァントの最円熟期の記録

ヴァント&北ドイツ放送交響楽団の遺産と題された5タイトルのうちのひとつ。1996年のヴァント最円熟期の記録である。これはブルックナー没後100年を記念する演奏会で、ライヴで本領を発揮するヴァントならではの音楽を聴かせている。音楽には 弛緩しかん したところは 微塵みじん もなく、 大伽藍がらん を想わせる構築物が形成されている。緩徐楽章における細やかな表情も印象的だ。オーケストラが巨匠のタクトに機敏に反応していることが うかが われる。

サン=サーンス:
ヴァイオリン協奏曲第3番
チェロ協奏曲第1番

ルノー・カプソン(ヴァイオリン)
ゴーティエ・カプソン(チェロ)
リオネル・ブランギエ(指揮)
フランス国立放送フィルハーモニー管弦楽団
(ワーナー)WPCS-12622 2730円

情熱と気品を兼ね備えたルノーと格調高いゴーティエのカプソン兄弟

ルノー&ゴーティエ・カプソンの独奏で、サン=サーンスのヴァイオリンとチェロを独奏楽器とした協奏的作品集。ヴァイオリン協奏曲第3番ではルノーのソロが情熱と気品を兼ね備えた演奏を聴かせている。共感豊かな歌に満ちた演奏だ。チェロ協奏曲第1番では、ゴーティエの正確な技巧と格調の高い表現が際立つ。ヴァイオリンとチェロを独奏楽器とした「ミューズと詩人」では知られざる曲の全貌を明らかにする。

器楽・室内楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルト:ピアノ作品集

●シューベルト:ピアノ・ソナタ第18番●モーツァルト:ロンドイ短調
●ベートーヴェン:バガテル作品126
メナヘム・プレスラー(ピアノ)
(キングインターナショナル)LDV-12
オープン価格

プレスラーの滋味豊かな心に響く演奏

1955年の結成以来53年間にわたって活動を続けたボザール・トリオのメンバーとして知られるメナヘム・プレスラーは、近年ソリストとしての活動が目覚ましく、この録音でも滋味豊かな心に響く演奏を聴かせる。シューベルトではファンタジーあふれる繊細な歌を奏で、モーツァルトは演奏の難しい「ロンド」で微妙な情感を浮き彫りにする。ベートーヴェンでは簡潔で明快な真に美しい響きを探求。熟成された音楽に心が洗われる。

荘村清志デビュー45周年記念
「アルハンブラの想い出」

●愛のロマンス~映画「禁じられた遊び」より●モンポウ:歌~歌と踊り第6番より
●アルベニス:朱色の塔●ファリャ:粉屋の踊り~「三角帽子」より
●タルレガ:アルハンブラの想い出、他
荘村清志(ギター)
(ユニバーサル)TYCE-84011 3000円

45年間の音楽人生が凝縮した記念碑的なアルバム

ギターは奏者がからだ全体で楽器を包み込むように抱え、心臓のすぐそばで音を鳴らし、指でじかに音を発するためか、ギタリストの人間性がリアルに投影されるように思う。荘村清志のギターも真摯で研究熱心で前向きな性格が表れ、聴くほどに心が温かくなっていく。新譜は荘村清志の45年間の音楽人生が凝縮した記念碑的なアルバム。イエペスを敬愛する彼が、スペイン作品で描き出す音の日記であり、大切な記録であり、記憶でもある。

オペラ・声楽

石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト

バッハ:「マタイ受難曲」

マーク・パドモア(テノール、福音史家)
マグダレーナ・コジェナー(メゾ・ソプラノ)ほか
サー・サイモン・ラトル(指揮)
ベルリン・フィル&ベルリン放送合唱団ほか
ピーター・セラーズ(演出・舞台)
(キングインターナショナル)KKC9064(DVD) 3500円
KKC9063(BD)5500円

受難曲を「儀式」「瞑想」ととらえたP・セラーズの斬新な試み

これもラトル&ベルリン・フィルの斬新な試みとして話題となった2010年の公演。舞台を演出したピーター・セラーズは、「儀式」であり「瞑想」だとしている。オケも合唱団もソリストも(いずれも素晴らしい!)も黒づくめで、まさに儀式のような動きで、キリスト(福音史家のパドモアが扮する)が弟子たちに裏切られ、十字架に架けられて死ぬまでの物語がドラマチックに語られる。キリストの深い哀しみが舞台全体に伝わる、感動的な演奏だ。

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