新譜CD&DVD vol.3(2013.7)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ベートーヴェン:交響曲第8番、第9番「合唱」

シモナ・ホウナ・シャトゥロヴァ(ソプラノ)、
ヤナ・ホラコヴァ・ルヴィコヴァ(アルト)、リハルト・サメク(テノール)、
マテイ・ハディマ(バリトン)
小林研一郎(指揮)
チェコ・フィルハーモニー管弦楽団
(オクタヴィア)OVCL-00498(2CD) 3500円

オーケストラの多彩な響きを駆使して描く「第九」

小林/チェコ・フィルによるベートーヴェン交響曲全集の完結編。第8番は2011年の収録。大編成の管弦楽を鳴らしきった小林ならではの演奏である。会場のドヴォルザーク・ホールの豊かな残響を伴った音色を録音は的確にとらえている。13年に収録された第9番では、オーケストラの多彩な響きを駆使してベートーヴェンの音世界の奥深さを明らかに。第3楽章の清らかな味わいは特筆に値する。終楽章の壮麗な音楽もきわめて魅力的だ。


ブルックナー:交響曲第3番

ロリン・マゼール(指揮)
ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-1628 2520円

オーケストラの持ち味を活かしながら独自の個性を刻印

2012年9月、ミュンヘンのフィルハーモニーで行われたマゼールのミュンヘン・フィル音楽監督就任披露演奏会におけるライヴ。このオーケストラにとって、ブルックナーのレパートリーは特別な意味を持っているのは言うまでもない。マゼールはそうしたオーケストラの持ち味を活かしながら、独自の個性を明確に刻印している。チェリビダッケ時代の豊饒な響きが蘇ってくる瞬間もあり、鬼才マゼールの面目躍如たる名演といえるだろう。

器楽・室内楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

シャコンヌ

フランク:前奏曲、コラールとフーガ
バッハ:シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリン・パルティータ第2番/ブゾーニ編)
シューベルト:即興曲第3番D935-3
ワーグナー:イゾルデの愛と死(「トリスタンとイゾルデ」より)、他
小山実稚恵(ピアノ)
(ソニー)SICC-1626 2940円

ピアニストとしての進化と深化を存分に発揮

小山実稚恵は2006年から17年まで年2回のリサイタル・シリーズを継続中。新譜にはそのなかで演奏されるものが含まれ、ピアニストとしての進化と深化を存分に発揮する形となっている。すべての作品が彼女の心の奥からの歌となり、作曲家への敬意と作品への共感を示すものだが、とりわけ「幻想ポロネーズ」が心に深く響いてくる。長年弾き込んだショパンへの思いが凝縮し、ショパンの詩情と美質がリアルに描き出されているから。

オペラ・声楽

石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト

ふるさと~日本の歌~ 幸田浩子

山田耕筰:「この道」/「からたちの花」/「赤とんぼ」/
成田為三:「浜辺の歌」/大中寅二:「椰子の実」/武満徹:「翼」ほか全19曲
幸田浩子(ソプラノ)
寺嶋陸也(ピアノ)
(コロムビア)COCQ-85005 2940円

バラエティーに富んだ選曲、のびやかな美しい声で日本の歌を

日本の歌ばかりを集めた、待望のアルバム。まず選曲がバラエティ―に富んでいる。「ペチカ」など山田耕筰のおなじみの名曲に加え、川口耕平の「よかった」なども歌われ、曲の素晴らしさを再認識させられた。また武満徹の「翼」と「小さな空」は、このアルバムの白眉。のびやかな美しい声で、抒情的な名曲を楽しませてくれる。芸大の同級生、菅野祥子の「春なのに」も感動的な美しい曲だ。寺嶋陸也のファンタジックなピアノも聴きもの。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

シューマン:クライスレリアーナ、他

●シューマン:幻想曲 ハ長調op.17
ホアキン・アチューカロ(ピアノ)
(La Dolce Volta)LDV10
オープン価格

抜けがよく、明るさに満ちたシューマン

シューマンのピアノ曲にありがちな音符がギッシリ詰まった感がない、抜けのいいピアニズム。繊細な変化でゆったりと聴かせる「幻想曲」。第2楽章でも決して下品に盛り上がらない初夏の空のような高揚感が見事だ。「クライスレリアーナ」も、病的な雰囲気から軽々と抜け出す。その明るい音色は、ケンプの演奏を彷彿とさせるが、かつての巨匠よりも芯が強い旋律線が特徴だろうか。かつてエンサーヨ・レーベルから出ていた名演の復活。

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