新譜CD&DVD vol.30(2015.10)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ニュー・シーズンズ/クレーメル

●グラス:ヴァイオリン協奏曲第2番「アメリカの四季」、ペルト:エストニアの子守歌、カンチェリ:エクス・コントラリオ、梅林茂:夢ニのテーマ
ギドン・クレーメル(ヴァイオリン)
クレメラータ・バルティカ、他
(ユニバーサル)UCCG-1705 2808円

「四季」を音楽活動の柱にするクレーメルならではのユニークな一枚

 2013、14年の収録。クレーメルは「四季」というテーマの音楽を好んで取り上げてきた。ヴィヴァルディ作品、そのヴィヴァルディとピアソラを組み合わせた「エイト・シーズンズ」、「ルシアン・シーズン」をはじめ、その取り組みは演奏活動のひとつの柱になるものだった。この「ニュー・シーズンズ」は現代作曲家の「四季」をテーマとした作品を集めたもの。グラス、カンチェリ、ペルト、梅林の曲は、いずれも研ぎ澄まされた感性を反映したもの。クレーメルならではのユニークな一枚だ。

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」

●ベートーヴェン:レオノーレ序曲第1番、第2番
オットー・クレンペラー(指揮)
フィルハーモニア管弦楽団
(ワーナー)WPCS-13208 3240円(SACDハイブリッド)

中庸のテンポによるしなやかな解釈が印象的な1955年録音盤

 クレンペラーのベートーヴェンの交響曲第3番では、1959年に収録されたステレオ録音が名高いが、これは55年に収録されたモノラル録音である。クレンペラーのベートーヴェンといえば、悠然としたテンポによる確信に満ちた解釈というイメージが強いが、このモノラル録音では中庸のテンポがとられ、よりしなやかな解釈がとられているのが印象的。音楽のフォルムはきわめて堅固だが、過度に骨太な印象はない。そのスケールの大きさはステレオ録音を大きく凌駕りょうがする。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

ヴェルビエ音楽祭2007─ライヴ~カルト・ブランシュ~

●ベートーヴェン:ピアノ三重奏曲「幽霊」●シューマン:「子供の情景」●シューベルト:大ロンドー●ラヴェル:マ・メール・ロワ、他
マルタ・アルゲリッチ
ミッシャ・マイスキー
ジュリアン・ラクリン
ラン・ラン、他
(ユニバーサル)UCCG-1710/1 3456円

アルゲリッチの信頼する仲間たちのアンサンブル

 毎年スイスで開催されるヴェルビエ音楽祭は1997年以降アルゲリッチが常連となり、彼女の信頼する音楽仲間が一堂に会し、新たな作品や他では組めないアンサンブルが登場し、活況を呈している。今後アーカイヴ録音が次々にリリースされる予定で、まず2007年のライヴがリリースされた。室内楽も丁々発止の音の対話が堪能できるが、シューマンの「子供の情景」はアルゲリッチのソロ。魔法の物語のように聴き手の心を引き付け、魅了する。

音楽史・バロック

安田和信◎音楽評論家

ヴィヴァルディ/最後の協奏曲

●ヴィヴァルディ: ヴァイオリン協奏曲ロ短調/ヴァイオリン協奏曲ホ短調/ヴァイオリン協奏曲変ロ長調 /ヴァイオリン協奏曲ハ長調 /ヴァイオリン協奏曲ヘ長調 「聖ロレンツォの祝日のために」、他
ファビオ・ビオンディ(ヴァイオリン)
エウローパ・ガランテ
〈2014年録音〉
(グロッサ)GCD-923402 オープン価格

多彩な音色を駆使して全身に漲る表現意欲

 ヴィヴァルディが死の直前にヴィンチグェーラ・コッラルト伯爵という音楽愛好家に売却した楽譜のリストに掲載された作品を収めるという、この作曲家に造詣の深いビオンディらしい企画盤。有名な《聖ロレンツォの祝日に》など、全部で6曲のヴァイオリン協奏曲を収録。多彩な音色やボウイング、ヴィブラートを駆使して、全身にみなぎるその表現意欲を実際の音にしてみせるビオンディのソロはこれまでと変わらない。オケも素晴らしい。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト

ワーグナー:楽劇「トリスタンとイゾルデ」

プラシド・ドミンゴ(トリスタン)
ニーナ・シュテンメ(イゾルデ)
ルネ・パーペ(マルケ王)
藤村実穂子(ブランゲーネ)、ほか
アントニオ・パッパーノ(指揮)
コヴェント・ガーデン王立歌劇場管&合唱団
(ワーナー)WPCS-13210/2 4860円 ※3CD、EMI原盤、再発盤

ドミンゴの念願がかなったトリスタン役ほか、豪華な歌手陣

 2005年に発売された当初は、大変な話題を呼んだ盤。トリスタン役を歌いたいと熱望してきたドミンゴが満を持して取り組んだ録音で、ドミンゴゆかりのスター歌手たちが脇を固めている。ビリャソン、ボストリッジといったスターが脇役で共演していて、顔ぶれも華やかだ。ドミンゴの声は輝かしい高音と明るい響きが魅力的で、シュテンメの若々しいまろやかな声と良く合っている。パッパーノの指揮はよく歌い、重くならない新鮮なワーグナー演奏だ。

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