新譜CD&DVD vol.37(2016.05)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ベートーヴェン:交響曲第4番、第5番「運命」

ニコラウス・アーノンクール(指揮)
ウィーン・コンツェントゥス・ムジクス
(ソニー)SICC-30250 2808円

聴く者にとって音楽とは何かを問いかけてくる巨匠の遺言

 2015年5月にウィーン楽友協会大ホールで行われた演奏会のライヴ。12月に演奏活動からの引退を表明、3月5日に没したアーノンクールの最後のレコーディングとなった。新たなベートーヴェン全集の第一弾となるはずだった録音だが、一点だけでも完成したことを感謝せざるにはおかない別格の名演だ。耳慣れた作品がこれほど新鮮に響くことに驚かざるを得ない。 凄絶せいぜつ という形容がふさわしい、聴く者にとって音楽とは何かを問いかけてくるような一枚である。

ブラームス:ヴァイオリン協奏曲

●バルトーク:ヴァイオリン協奏曲第1番
ジャニーヌ・ヤンセン(ヴァイオリン)
アントニオ・パッパーノ(指揮)
サンタ・チェチーリア国立アカデミー管弦楽団
ロンドン交響楽団
(ユニバーサル)UCCD-1424 2808円

「交響曲のような力強さと室内楽のような親密さをもつ」2曲

 ブラームスのヴァイオリン協奏曲の余白にバルトークのヴァイオリン協奏曲を入れるというカップリングは異色のもの。ヤンセンは「音楽言語は異なるが、ハンガリーという共通項があり、交響曲のような力強さと室内楽のような親密さをもつ」と両者の関連について語る。実際に聴いてみると彼女の言葉は説得力を持っていることが明らかになる。2015年のライヴ収録のブラームスからは会場の熱気が伝わってくるよう。バルトークは2014年のセッション収録である。

コルンゴルト/ブリテン:ヴァイオリン協奏曲

●コルンゴルト:ヴァイオリン協奏曲●ブリテン:ヴァイオリン協奏曲
ヴィルデ・フラング(ヴァイオリン)
ジェイムズ・ガフィガン(指揮)
フランクフルト放送交響楽団 
(ワーナー)WPCS-13324 2808円

ノルウェーの若手が持ち味をのびのびと発揮

 ノルウェーの若手ヴァイオリン奏者がその持ち味をのびのびと発揮した感のある演奏である。コルンゴルトの親しげな旋律を豊かに歌わせ、しかも高貴な味わいを醸すところにはこの奏者の天性の音楽性が如実に示されている。この作品が不当に見過ごされていることを再認識させてくれる。ブリテン作品では、古典的な外見のなかに斬新な書法が駆使されていることを明らかにする。ガフィガン指揮、フランクフルト放送響が的確な伴奏付けを行っている。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

ウォーター

●ベリオ:水のピアノ●ソーニー:トランジション1●武満徹:雨の樹素描Ⅱ●フォーレ:舟歌第5番●ラヴェル:水の戯れ●アルベニス:アルメリア●リスト:エステ荘の噴水●ヤナーチェク:霧の中で第1曲、他
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1731 2808円

「水」をテーマにしたさまざまな作品を凛とした演奏で

 グリモーはプログラムを考えるさい、ひとつのテーマを掲げ、それに沿った作品を選ぶ。その選曲はだれも考えなかった斬新なスタイルを備え、意外性も秘めている。彼女はさまざまな作品と作品の間の共通項やつながりを見つけ、有機的に組み立てていくことに喜びを見出しているようだ。新譜は「水」がテーマ。リストから武満徹まで、作曲家がさまざまな水から触発された作品がずらりと勢ぞろい。全編に りん としたピュアな音が流れている。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト

マリア・カラス「パリ・デビュー1958 歌に生き、恋に生き」

●ベッリーニ:歌劇「ノルマ」より「清らかな女神よ」/ヴェルディ:歌劇「トロヴァトーレ」より「恋はばら色の翼に乗って」、ほか全20曲
マリア・カラス(ソプラノ)、ティト・ゴッビ(バリトン)、ほか
ジョルジュ・セバスティアン(指揮)
パリ・オペラ座管弦楽団&合唱団
(ワーナー)WP×S90004 4320円 ※ブルーレイ

得意のレパートリーで魅了した伝説的なパリでのコンサート

 今はもう伝説となっている「パリ・デビュー」。客席には大統領以下、パリ中のお歴々がずらり顔を そろ えた華やかな一夜。カラスは35歳の女盛りで、声も容姿も絶頂期。まずは得意の「ノルマ」で女王の威厳を見せ、「トロヴァトーレ」で見事な歌唱力を披露。そして「セビリャの理髪師」では、おきゃんな町娘を生き生きと演じる。その刻々と変貌する表情や動きも見どころ。後半はティト・ゴッビ相手に「トスカ」の2幕を衣装と舞台付きで演じる。見るたびに感動新たになる。

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