交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ベートーヴェン交響曲全集
アンネッテ・ダッシュ(ソプラノ)、エーファ・フォーゲル(アルト)、クリスティアン・エルスナー(テノール)、ディミトリー・イヴァシュシェンコ(バス)
サイモン・ラトル(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団、ベルリン放送合唱団
(キングインターナショナル)KKC-9151 14040円
(6CD、3ブルーレイディスク=映像、音楽、ハイレゾ・ダウンロード・コード入り)
オーケストラを尊重しつつ自由な音楽づくりを貫いたラトル
2015年のライヴ録音。ラトルは02年にウィーン・フィルを指揮してベートーヴェンの交響曲全集を録音しているが、その際はピリオド奏法のアプローチを取り入れるなど、「古風」な個性を持つウィーン・フィルの持ち味を最大限に活かすアプローチをみせた。今回のベルリン・フィルとの録音では、オーケストラの圧倒的な質感、量感を尊重しながらも、自らの自由な音楽づくりを貫いている。ベルリン・フィルとの長年の共同作業の一つの集大成といえる。ブルーレイ、他付き。
マーラー:交響曲第5番
●バッハ~シェルヘン編:「フーガの技法」、バリフ:角笛と猟犬
ヘルマン・シェルヘン(指揮)
フランス国立放送管弦楽団
(アルテゥス)ALT-339 オープン価格
700小節以上のカットは愛好者にとって見逃せない
ヘルマン・シェルヘン(1891~1966)は、セッション録音も数多く残しているが、その本領はライヴで発揮されるといわれている。当演奏は65年のライヴ。マーラーの急速楽章はアンサンブルの乱れなどお構いなく、疾風 怒濤 の趣をもって進行する。その効果は生のシェルヘンならではといえるだろう。第3楽章と第5楽章には、合わせて700小節を超えるカットがあり、マーラーの演奏史上の一つの事実として非常に興味深い。マーラー愛好者にとって見逃せない一枚だ。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
マルタ・アルゲリッチ アーリー・レコーディングス
●モーツァルト:ピアノ・ソナタ第18番●ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第7番●プロコフィエフ:トッカータ/ピアノ・ソナタ第3番●ラヴェル:夜のガスパール、他
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1743/4 3780円
若きアルゲリッチの躍動感あふれるピアニズム
アルゲリッチがドイツ・グラモフォンからデビュー録音をリリースする1年前の1960年と、1967年の放送音源が日の目を見た。モーツァルト、ベートーヴェン、プロコフィエフ、ラヴェルという選曲で、いずれも若きアルゲリッチの疾走するような熱くはげしく躍動感あふれる強 靭 なピアニズム。強弱のコントラスト、静と動のバランス、主題の微妙なニュアンスに富む歌い回しなど天才性が 横溢 。特に、「夜のガスパール」が心に深く浸透する。
シューベルト:弦楽五重奏曲D.956&歌曲
●シューベルト:ギリシャの神々/死と乙女/若者と死/アテュス/いとしい星
エベーヌ弦楽四重奏団
(ワーナー)WPCS-13397 2808円
自由闊達な演奏でシューベルティアーデの雰囲気を伝える
1999年フランスの音楽院仲間によって結成され、2004年ARDミュンヘン国際音楽コンクールで優勝を遂げたエベーヌ弦楽四重奏団。新譜のシューベルトは、チェロのゴーティエ・カピュソンを加えた弦楽五重奏曲、バリトンのマティアス・ゲルネによる歌曲も収録され、「シューベルティアーデ」の雰囲気を伝える。エベーヌの特質は一糸乱れぬアンサンブルだが、堅苦しくなく自由 闊 達。ジャズを愛する彼らは、即興性と革新性を曲に盛り込む。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽評論家
バルトーク:歌劇「青ひげ公の城」
マティアス・ゲルネ(青ひげ公)
エレーナ・ツィトコーワ(ユディット)、ほか
小澤征爾(指揮)
サイトウ・キネン・オーケストラ
(ユニバーサル)UCCD-1431 3240円
※SHM-CD
稀にみる精緻でドラマチックで、抒情的な小澤指揮の名演
発売延期になっていた、2011年サイトウ・キネン・フェスのライヴ。小澤が指揮した貴重な記録だ。神秘的な口上から、聴く人を謎へと引き込み、青ひげの迷宮へと誘う小澤の巧みな誘導。柔らかく包容力のあるゲルネの青ひげは次第に冷たく残虐性を帯びていく、その変貌が見事。少女性を感じさせるツィトコーワのユディットも新鮮だ。豊かな色彩で繊細にシーンを描写する小澤の指揮は第5の扉以後、極度の緊迫感を 孕 む。これは稀にみる精緻でドラマチックで、抒情的な名演だ。