新譜CD&DVD vol.43(2016.11)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ベートーヴェン:交響曲第5番「運命」

●モーツァルト:クラリネット協奏曲
リカレド・モラレス(クラリネット)
小澤征爾(指揮)
水戸室内管弦楽団
(ユニバーサル)UCCD-1433 3240円

楽員の心が指揮者のタクトのもと一つになり精緻で熱い音楽を展開

2016年のライヴ。小澤と水戸室内管弦楽団によるベートーヴェン・チクルスの第3弾で、小澤のさらなる円熟を印象付ける演奏といえるだろう。楽章間に横に置かれた椅子に腰かけ、水を補給するという指揮ぶりだが、音楽は生気に富み、緊張感も比類ない。楽員たちの心が指揮者のタクトのもと一つになり、精緻で熱い音楽を展開している。モーツァルトのクラリネット協奏曲は指揮者なしの演奏。そこでは気心の知れた仲間たちが音楽する喜びにあふれている。

ベルリオーズ:幻想交響曲

シャルル・ミュンシュ(指揮)
日本フィルハーモニー交響楽団
※同演奏会リハーサル風景付き
(オクタヴィア)OVCL-00599 2916円

ライヴ特有の熱気にあふれた日本演奏史に残る記録

1960年のミュンシュが日本フィルに客演した際の最終日のプログラムから。ミュンシュの十八番だった作品を収録。ミュンシュにはパリ管弦楽団を指揮した名盤があるが、演奏に臨む気迫は両者甲乙つけがたい。響きの色彩についてはパリ管に分があるとはいえ、ライヴ特有の熱気には圧倒される。当時の日本フィルの充実ぶりには驚かされる。故若林駿介氏の手になるステレオ録音。鮮明な音質には驚かされる。日本の演奏史に残る記録のリリースを歓迎したい。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

ワンダーランド

●グリーグ:ピアノ協奏曲/抒情小曲集「ペール・ギュント」から
アリス=紗良・オット(ピアノ)
エサ=ペッカ・サロネン(指揮)
バイエルン放送響
(ユニバーサル)UCCG-1747 3240円

練られた演奏で作品に新たな息吹を吹き込むアリス

アリス=紗良・オットは、録音を発表するごとにその作品に新たな息吹を吹き込む。長年演奏し続けてきたグリーグの作品も、まさにタイトルの「ワンダーランド」が示すように魅力的な世界へと聴き手を誘い込む練られた演奏。サロネンとの協奏曲はノルウェーの空気をまとうような感覚を抱かせ、「抒情小曲集」はグリーグの日記のような親密な雰囲気を醸し出す。小さな宝物のようなグリーグのピアノの世界は、聴き手の心身を癒し解きほぐす。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽評論家

ボストリッジ&パッパーノ「シェイクスピア・ソングズ」

●フィンジ:歌曲集「花輪を捧げよう」/シューベルト:「シルヴィアに」/コルンゴルド:「道化の歌」より「来たれ、死よ」、他全23曲
イアン・ボストリッジ(テノール)
アントニオ・パッパーノ(ピアノ)
(ワーナー)9029594473 オープン価格

沙翁没後400年を記念して企画されたユニークなアルバム

今年はシェイクスピアの没後400年。その演劇の中で歌われるソングも多数あり、かつてはデラー・コンソートの録音もある。ボストリッジが選んだのは、18世紀から20世紀にかけての多彩な作曲家による27の歌曲。同じ歌詞に2人、3人が作曲しており、その聴き比べも興味深い。優しく深い詩的なピアノはパッパーノ。澄んだ声を持つボストリッジのクリアーな発声と発音、説得力ある歌唱が聴きもの。中でもロジャー・クィルターの「来たれ、死よ」が圧巻。

現代曲

長木誠司◎音楽評論家

ルトスワフスキ:ピアノ協奏曲、チェイン3、ノヴェレッテ

クリスティアン・ツィメルマン(ピアノ)
ヴィトルド・ルトスワフスキ(指揮)
BBC交響楽団
(ユニバーサル)UCCG-6273 1728円

作曲者自身の指揮による録音がSHM-CDで再発売

クリスティアン・ツィメルマンのために書かれたルトスワフスキのピアノ協奏曲がSHM-CDで再発された。併収された「チェイン3」も「ノヴェレッテ」も初出時と変わりないが、ピアノ協奏曲はこの後、ツィメルマンはラトル~ベルリン・フィルと再録している。改めて聴くと、ベルリン・フィル盤の精緻さと豪放さは破格のものではあるものの、作曲者自身によるBBC交響楽団のドライヴも秀逸。初演時の心を忘れない演奏として貴重。

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