新譜CD&DVD vol.6(2013.10)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

チャイコフスキー:交響曲第4番

小林研一郎(指揮)
ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団
(オクタヴィア)OVCL-00505
3000円

作品への共感を露にしながらバランスにも配慮した音楽作り

 小林研一郎とロンドン・フィルの組み合わせによるチャイコフスキーの交響曲全集と主要管弦楽曲集の録音が開始された。その第1弾として2013年にロンドンのアビー・ロード・スタジオでセッション収録された交響曲第4番と「イタリア奇想曲」がリリースされた。第4番では作品への共感を露わにしながら、バランスにも配慮した音楽づくりが特徴的である。オーケストラの音色の美しさも特筆に値する。小林の円熟を印象付ける1枚だ。

ベートーヴェン:序曲集

「エグモント」序曲、「コリオラン」序曲、「フィデリオ」序曲、
「レオノーレ」序曲第3番、他
パーヴォ・ヤルヴィ(指揮)
ドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメン
(ソニー)SICC-10190
2940円

交響曲全集の延長上にある雄弁で示唆に富んだアプローチ

 2010年と12年の収録。パーヴォ・ヤルヴィとドイツ・カンマーフィルハーモニー・ブレーメンによるベートーヴェンでは、交響曲全集がきわめて高い評価を確立しているが、この序曲集はいわばその続編ともいうべきもの。いわゆるピリオド・アプローチの延長上にあるヤルヴィと彼のオーケストラによる演奏はどれをとってもこの上なく雄弁で、示唆に富んでいる。そのヴィブラートを排した弦楽器の美しさには比類ないものがある。

器楽・室内楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

ヴェーバー:6つのヴァイオリン・ソナタ、四重奏曲

イザベル・ファウスト(ヴァイオリン)
アレクサンドル・メルニコフ(フォルテピアノ)
ボリス・ファウスト(ヴィオラ)
ヴォルフガング・エマニュエル・シュミット(チェロ)
(キングインターナショナル)KKC-5280
3000円

ファウストの旋律美と自由闊達なメルニコフ

ファウストとメルニコフのコンビは、ピリスとデュメイのように相反した個性が刺激的な音の対話を生み、聴き手の心を高揚させる。ここではヴェーバーの音楽が生命力をもって奏でられ、作品の真価を知らしめる。ファウストの輝きに満ちた旋律美とともに、フォルテピアノを自由闊達に奏でるメルニコフの才能にも注目したい。四重奏曲も全員の個性的な音が丁々発止の雄弁な対話となり、斬新な作風が幾重にも折り重なって迫ってくる。

オペラ・声楽

石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト

ヴェルディ:歌劇「オテロ」

アレクサンドルス・アントネンコ(オテロ)
マリーナ・ポプラフスカヤ(デズデーモナ)
カルロス・アルバレス(ヤーゴ)ほか
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
ウィーン国立歌劇場合唱団
リッカルド・ムーティ(指揮)
スティーヴン・ラングリッジ(演出)
(キング)KIXM-125 5250円 ※ブルーレイ

ムーティ&ウィーン・フィルの演奏はもちろん、演出も見応え十分

ヴェルディ全オペラのシリーズ中、白眉となる映像。2008年ザルツブルク音楽祭の舞台で、ムーティ指揮によるウィーン・フィルの演奏が素晴らしい。ラングリッジ(名テノールの息子)の演出は、シェークスピアの演劇的な手法に沿ったもので、舞台づくりは象徴的でダイナミック、緊迫感ある舞台だ。歌手ではアントネンコの若々しい力強い声とアルバレスの狡猾な表情が見事。実際の舞台も見たが、映像監督が優秀なのか、映像の方が見応え充分だ。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

J.S.バッハ:ゴルトベルク変奏曲

ミカエル・ツァルカ(クラヴィコード)
(Paladino Music)pmr-0032
オープン価格

クラヴィコードで聴くゴルトベルク

ツァルカは以前もトゥルクの鍵盤作品を4つの異なる楽器で弾くなど、その多彩な活動で知られるイスラエルのピアニスト。今回、彼が挑むのはクラヴィコードを用いてのゴルトベルク変奏曲だ。チェンバロやピアノの場合のように、流 ちょう な指使いはできない楽器。それをツァルカが事細かに表現や音色にこだわって弾いている。第29変奏など、涙ぐましいばかりのアイディアと努力。まるでギターでつま弾くようなインティメートなバッハだ。

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