交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ブラームス:交響曲全集
ダニエル・バレンボイム(指揮)
ベルリン・シュターツカペレ
(ユニバーサル)UCCG-1804/7 6480円(4CD)
録音:2017年
バレンボイムが完熟の域に達したことを示す演奏
バレンボイムが満を持して世に問う感のあるブラームスだ。1993年にシカゴ交響楽団と入れた覇気に満ちた演奏も見事だったが、やや響きが荒い印象もあった。それと比べると、今回の録音はこの音楽家が完熟の域に達したことを示すもの。音楽のスケールの雄大さ、細部の彫琢の深さ、ブラームスにふさわしいロマン性などどれをとっても申し分ない。彼の楽器となりきったベルリン・シュターツカペレはこうしたレパートリーでは比類ない演奏を行う。
ベートーヴェン&チャイコフスキー:ヴァイオリン協奏曲
庄司紗矢香(ヴァイオリン)
ユーリ・テミルカーノフ(指揮)
サンクトペテルブルク・フィルハーモニー交響楽団
(ユニバーサル)UCCG-1811 3240円
録音:2017年
様式を守りながら堂々と自己主張する演奏に聴き応え
庄司紗矢香が長年愛奏してきた名曲2つをライヴ録音した。ヴァイオリンをたっぷり鳴らし切り、それぞれの作品に適した様式を守りながら堂々と自己主張する音楽はいずれも極めて聴き応えがある。テミルカーノフとサンクトペテルブルク・フィルとの共演は2001年から頻繁に行っており、そこで育まれた信頼関係と生演奏の一期一会の意気込みがこうした演奏を実現したのだろう。オーケストラも過度に重くなることなく、洗練された音楽を聴かせている。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
バッハ・カレイドスコープ
●バッハ:前奏曲とフゲッタ ト長調 前奏曲/
コラール前奏曲《今ぞ喜べ、愛するキリスト者の仲間たちよ》/
前奏曲とフーガ ホ短調(平均律クラヴィーア曲集第1巻第10番)オルガン・ソナタ第4番より第2楽章、他
ヴィキングル・オラフソン(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1812 3024円
バッハの自由な魂に迫る独特のアーティキュレーション
1984年アイスランド生まれのオラフソンは、久しぶりに登場した個性あふれるピアニスト。映画音楽にも携わり、オックスフォード大学とレイキャビク大学でマスタークラスの指導者として迎えられている。モットーはクラシック音楽に新しい扉を開くこと。新譜は長年探求し続けているJ.S.バッハ。コラール前奏曲やカンタータの編曲版も加え、バッハの多様性と普遍性と自由な魂に迫る。独特のアーティキュレーションと新鮮な表現に注目。
ムソルグスキー:展覧会の絵、ラフマニノフ:音の絵より
●ラフマニノフ:練習曲集「音の絵」より(編曲:ディルク・モメルツ)「赤頭巾ちゃんと狼」/「海とかもめ」/「市場の情景」、他●ムソルグスキー:組曲「展覧会の絵」(編曲:グリゴリー・グルズマン、ディルク・モメルツ)
フォーレ四重奏団
(ベルリン・クラシックス)0301116BC オープン価格
ピアノ四重奏団の精緻かつ斬新なアンサンブル
ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、ピアノという編成のフォーレ四重奏団が、ムソルグスキー「展覧会の絵」の編曲版を精緻かつ斬新なアンサンブルで聴かせる。1995年ドイツ・カールスルーエ音楽大学卒の4人で結成、いまやこの分野の第一人者だ。ラフマニノフの「音の絵」もみずみずしく色彩感豊かな響きが横溢し、作品の新たな魅力を放っている。これらの編曲版、演奏したいと思う人が現れるに違いない。4つの楽器の拮抗した音が心に響く。
輸入盤
鈴木淳史◎音楽評論家
マーラー:大地の歌
マグダレーナ・コジェナー(メゾ・ソプラノ)
スチュアート・スケルトン(テノール)
サイモン・ラトル(指揮)
バイエルン放送交響楽団
(Br Klassik)900172 オープン価格
バイエルン放送響の柔らかな音が似合う「大地の歌」
ベルリン・フィルを無事に卒業、ロンドン響でさらに個性を発揮しているラトルだが、バイエルン放送響への客演も忘れてはならない。特に、「大地の歌」はこのオーケストラの柔らかなサウンドがもっとも似合う。独創的な響きのブレンドが顕著な「秋に寂しき者」が絶品。諦念の心地に至った者だけが得る、見通しの良さを思わせるような。そして、憂愁にじませるコジェナーの歌唱。この世界観、そのまま最後の「告別」に繋がる。