交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
サイモン・ラトル(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
(キングインターナショナル)
KKC-9351/3(2CD + 1ブルーレイ) 9000円
収録:1987年、2018年(ライヴ)
有無を言わさぬ説得力を持つ現代のマーラー演奏の極致
2018年6月に行われたラトルがベルリン・フィルの芸術監督として指揮する最後の演奏会を収録。曲はラトルが経歴の節目になる重要な演奏会で必ず取り上げてきたマーラーから、交響曲第6番。このアルバムには1987年の同オーケストラのデビューで演奏した第6番も所収。聴き比べると不変の部分と年月を重ねることによって生まれたさらなる円熟がつぶさに感じ取れる。有無を言わさぬ説得力をもち、現代のマーラー演奏のひとつの極致といえる。
マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
テオドール・クルレンツィス(指揮)
ムジカエテルナ
(ソニー)SICC-30490 2808円
録音:2018年
押し出しの強い饒舌な語り口に思わず引き込まれる
快進撃を続けるクルレンツィスとムジカエテルナがまたしても注目すべきディスクをリリースした。オーケストラの音色の魅力やアンサンブルの精度についてはベルリン・フィルと比較にならないのは致し方ない。しかし、このギリシャ出身の中堅は、自らの音楽としてマーラーを熱く表現することに長けている。世紀末的な味わいや絶望感の表現については避けて通った印象は否めないが、その押し出しの強い饒舌な語り口には思わず引き込まれてしまう。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ヒラリー・ハーン・プレイズ・バッハ
●バッハ:無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第1番/無伴奏ヴァイオリンのためのパルティータ第1番/無伴奏ヴァイオリンのためのソナタ第2番
ヒラリー・ハーン(ヴァイオリン)
(ユニバーサル)UCCD-1467 3024円
音楽人生を鮮やかに映し出したヒラリーの演奏
ヒラリー・ハーンが17歳のときにバッハのアルバムでCDデビューを果たしたときは、新たな時代のヴァイオリニスト誕生を強く印象付けたものだった。あれから20年、満を持してバッハを録音し、無伴奏作品全曲が完成することになった。彼女は演奏会でも常にバッハを演奏し、バッハとの濃密な関係を示してきた。ここに聴くバッハはヒラリーの音楽人生を鮮やかに映し出している。思慮深く気品に満ち、作品の内奥に迫ったバッハである。
ドメニコ・スカルラッティ:ソナタ集
●D.スカルラッティ:ソナタ イ長調K.208/ソナタ イ短調K.175/ソナタヘ短調K.69/ソナタ ニ短調K.141/ソナタ ニ短調K.213/ソナタ ホ長調K.216/ソナタ ホ長調K.162/ソナタ ハ長調K.132●ジャン・ロンドー:作者不詳の作品による間奏曲と即興、他(全16曲)
ジャン・ロンドー(チェンバロ)
(ワーナー)WPCS-13796 3024円
まるで夢の世界に運ぶロンドーの魔術に脱帽
冒頭のK208のソナタから完全にジャン・ロンドーの術中にはまる。彼はスカルラッティになりきってマリア・バルバラ王妃への手紙を書き、演奏も王妃になりきったものか、あるいはスカルラッティの模範演奏的に奏でているのかわからぬほどリアリティーに満ちている。まるで王宮で奏でられているような高雅で自由で高潔な演奏。まるで夢の世界へと運ばれるような響きに、しばし現世を離脱する思い。ジャン・ロンドーの魔術に脱帽である。
輸入盤
鈴木淳史◎音楽評論家
シューベルトの「鱒」とそれに基づく現代作品集
●シューベルト:ピアノ五重奏曲「鱒」●フェラント・クルイセント:サイバー変奏曲●ジェラルド・レッシュ:池、跳ねる●ヨハネス・X・シャハトナー:シューベルトの「鱒」五重奏への補遺、他
リナ・ニューダウアー(ヴァイオリン)
ウェン=シャオ・ジェン(ヴィオラ)
石坂団十郎(チェロ)
リック・ストーティン(コントラバス)
ジルケ・アヴェンハウス(ピアノ)
オープン価格(CAvi Music)4260085534081
現代作曲家の視点による「鱒」のさまざまな変奏曲
シューベルトの五重奏曲「鱒」と、それをモチーフにした現代の作曲家による変奏曲を収録したアルバム。実力派若手による本家のシューベルト作品は、まさしく水が飛び跳ねるかごとく溌剌とした抑揚で聴かせる。レッシュやシャハトナーは原曲の快活な動きに焦点をあて、ピアニストのラジッチの作品は、やはりピアノが華麗な技巧を発揮。なかでも、クルイセント作品は、鱒の目から、つまり水面下から釣り人を見るような視点が面白い。