新譜CD&DVD vol.79(2019.11)

交響曲・管弦楽曲・協奏曲

岡本稔◎音楽評論家

ベートーヴェン:交響曲全集

ヘルベルト・フォン・カラヤン(指揮)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
グンドゥラ・ヤノヴィッツ(ソプラノ)
長野羊奈子(メゾ・ソプラノ)
ヨーン・ヴァン・ケステレン(テノール)
外山雄三(合唱指揮)
(キングインターナショナル)KKC-2176/80
オープン価格(5CD)(1966、東京ライヴ)

完成度とライヴの白熱した味わいも兼ね備える

 1966年の来日公演のライヴ。東京文化会館における5つの演奏会を所収。この来日では、カラヤン自身がベートーヴェン・チクルスをプログラムの柱にすることを切望したといわれる。それを裏付けるようにいずれも大きな感銘をもたらす演奏だ。この組み合わせによる全集は3つ存在するが、このライヴとは時期が異なり、セッション録音。この録音は演奏の完成度を保ちながらも、ライヴならではの白熱した味わいも兼ね備えたものといえる。

室内楽・器楽

伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト

ラフマニノフ:ピアノ・ソナタ第2番
ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第22・24番

イーヴォ・ポゴレリチ(ピアノ)
(ソニー)SICC-30512 2808円

ベートーヴェンなど21年ぶりの新録音で鬼才健在を実感

 長年録音から遠ざかっていたイーヴォ・ポゴレリチがソニーに移籍し、21年ぶりに新録音を完成させた。選曲はラフマニノフのソナタ第2番とベートーヴェンのあまり演奏される機会に恵まれない2楽章構成の2曲のソナタ。いずれもポゴレリチならではの驚異的な集中力に満ちあふれた演奏で、冒頭から作品の内奥へと引き込まれ、最後まで奏者とともに呼吸しているような感覚に陥る。鬼才健在、特にベートーヴェンが現世から離脱した演奏。

音楽史・バロック

安田和信◎音楽評論家

バッハ一族の教会カンタータ
~17世紀の教会コンチェルトから、大バッハの青年時代まで~

●ヨハン・ミヒャエル・バッハ:ああ、そばにいてください、主イエス・キリスト
●ヨハン・クリストフ・バッハ:主を畏れることは
●ハインリヒ・バッハ:わたしはあなたに感謝します、神よ
●ヨハン・セバスティアン・バッハ:キリストは、たとえ死の縄目に繋がれ、他
リオネル・ムニエ(指揮)
ヴォクス・ルミニス
(リチェルカール)NYCX-10068 2916円
〈録音:2018年〉

純朴な信仰心と音楽が一体化し、作品の美質を際立たせる

 17世紀を生きたバッハ一族のうち、ヨハン・セバスティアンから2代前のハインリヒ、1代前のヨハン・クリストフとヨハン・ミヒャエルの作品等を集めている。18世紀の「教会カンタータ」とは様式がかなり異なり(本来は同一ジャンル名で呼ぶべきものではないのだが)、歴史的な変遷を強く感じることができる。演奏はかなり微温的ではあるが、純朴な信仰心と音楽が一体化しているような印象を与え、作品の美質を際立たせている。

オペラ&声楽

石戸谷結子◎音楽評論家

チャイコフスキー:歌劇「スペードの女王」

ブランドン・ジョヴァノヴィチ(ゲルマン)
イゴール・ゴロヴァテンコ(エレツキー公爵)
エフゲニア・ムラヴィエワ(リーザ)、他
マリス・ヤンソンス(指揮)
ウィーン・フィル&ウィーン国立歌劇場合唱団、他
ハンス・ノイエンフェルス(演出)
(キングインターナショナル)KKC-9447〈BD〉
KKC-9448〈DVD〉オープン価格
※輸入盤、日本語字幕付き

昨年のザルツブルク音楽祭で話題を呼んだチャイコフスキー

 昨年のザルツブルクで話題の公演。覇気があり、エネルギッシュなヤンソンスの指揮が素晴らしい。ウィーン・フィルの演奏もさすが!ノイエンフェルスの演出は少し先鋭さが後退しているが、映像でじっくり見ると細部にまで仕掛けが施されており、鬼才の名に恥じない革新的な舞台。賭け事に取り付かれ、転落する男の狂気がみごとに描かれる。歌手ではゲルマン役のジョヴァノヴィチが歌唱・演技ともドラマチック。リーザ役のムラヴィエワは新国で10月来日。

輸入盤

鈴木淳史◎音楽評論家

マーラー:交響曲第6番「悲劇的」
(1971年と2013年の2つの録音)

ミヒャエル・ギーレン(指揮)
バーデン=バーデン・フライブルクSWR交響楽団(南西ドイツ放送交響楽団)
(Hänssler SWR)SWR-19080CD オープン価格(3CD)

追悼盤として同じ曲の快速演奏と極遅演奏の2つを収録

 今年3月に亡くなったギーレンの追悼盤は2種類のマーラーの第6交響曲を収録。1971年の放送用録音は、高速テンポで冷ややかに突進する彼らしいスタイル。2013年のライヴ録音は、まるで晩年のクレンペラーを思わせる極遅テンポ。細部の傑出した描写力はそのまま、管弦楽が妙な熱量を帯びて生々しく鳴るので、どこかバーンスタインの姿も重なってくる。スケルツォ楽章の後半など、これまで誰も聴いたことのない異様な雰囲気だ。

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