交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲全集
ルドルフ・ブッフビンダー(ピアノ&指揮)
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ソニー)SICC-30136-8 5000円
ピアノと管弦楽が一体となった緊密な演奏を実現
ブッフビンターがウィーン・フィルを弾き振りしたベートーヴェンのピアノ協奏曲全集。ピアノと管弦楽が一体となった緊密な演奏が実現されている。第1番、第2番における清新な息吹に満ちた音楽の瑞々しさには比類ないものがある。陰影に富んだ第3番も印象的だ。第4番では遅めのテンポ設定のもと、細やかな味わいに富んだ音楽を聴かせる。作品が持つエネルギーを完全燃焼させた第5番「皇帝」も聴きものだ。
ブラームス:ピアノ協奏曲第1番、第2番
エレーヌ・グリモー(ピアノ)
アンドリス・ネルソンス(指揮)
バイエルン放送交響楽団
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
(ユニバーサル)UCCG-1637/8(2CD)
3600円
ブラームスを聴く醍醐味を堪能させてくれる演奏
2012年の録音。第1番はバイエルン放送響との共演による。ネルソンスの指揮するオーケストラの包容力の豊かな演奏に導かれ、ピアノがブラームスのロマン的な音楽を奏でる。壮大なスケールの音楽はきわめて魅力的だ。第2楽章の内省的な表情の美しさも特筆に値する。第2番はウィーン・フィルとの共演。ここでもグリモーは作品を完全に把握した堂々とした解釈を展開している。ブラームスを聴く醍醐味を堪能させてくれる演奏である。
器楽・室内楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
ショパン:ポロネーズ集
ショパン:2つのポロネーズ作品26/2つのポロネーズ作品40/ポロネーズ第5番/ポロネーズ第6番「英雄」/幻想ポロネーズ第7番
ラファウ・ブレハッチ(ピアノ)
(ユニバーサル)UCCG-1633 2800円
ポリフォニーと和声を際立たせた圧巻の「幻想ポロネーズ」
ラファウ・ブレハッチのショパンは聴き手の心を高揚させ、そのあまりにも純粋な演奏で涙を誘う。さまざまなポロネーズで祖国愛を存分に披露したこのディスク、舞曲のリズムの真髄と表現の多様性を奏で、ポロネーズの醍醐味を伝える。とりわけ「幻想ポロネーズ」が圧巻で、ポリフォニーと和声を際立たせ、バッハを尊敬していたショパンの心情を映し出すようにしっとりと構成感をもって演奏。バッハが得意なブレハッチならでは。
モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集
DISC1:●ピアノ・ソナタ第1番~第4番
DISC2:●ピアノ・ソナタ第5番~第7番、他
DISC3:●ピアノ・ソナタ第8番~第10番、幻想曲K.397、ロンドK.485、他
仲道郁代(ピアノ)
(ソニー)SICC-30130~5(6枚組)
15750円
豊かで芸術性を備えたモーツァルトの世界を俯瞰
2009年からフィリアホールで収録されてきた仲道郁代のモーツァルトのピアノ・ソナタ全集がCD6枚組となって完成した。作曲当時の楽器や演奏様式を研究し、現代のピアノで表現する難しさを踏まえ、モーツァルトの精神に近づく意欲作。解説書も充実し、仲道郁代と海老澤敏氏との対談、森泰彦氏の曲目解説などモーツァルト研究者が集結。豊かで深い芸術性を備えたモーツァルトの世界が俯瞰でき、作品の内奥に分け入ることができる。
オペラ・声楽
石戸谷結子◎音楽ジャーナリスト
ヴェルディ:「レクイエム」
アニヤ・ハルテロス(ソプラノ)
エリーナ・ガランチャ(メゾ・ソプラノ)
ヨナス・カウフマン(テノール)
ルネ・パーペ(バス)
ダニエル・バレンボイム(指揮)
ミラノ・スカラ座管弦楽団&合唱団
(ユニバーサル)UCCD-1377/8
3600円
指揮、独唱陣、オーケストラ、合唱、すべて現時点で最良の演奏
この曲の演奏は数々あれど、現時点で最良の演奏が、この新譜だ。ダイナミックなバレンボイムの指揮に加え、ミラノ・スカラ座管の明るくよく歌うオケが素晴らしい。もちろん合唱団も最高。さらにソリスト陣は考えられる限りベストの4人が集められた。ハルテロスの緊迫感ある美声、落ち着いたガランチャの声、カウフマンの抑えた深い表現にも胸打たれる。前半「私はあやまち嘆き」は劇的で、後半「奉献文」テノールの出だしは感動的に美しい。