交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
マーラー:交響曲全集(第1~10番アダージョ)
ハーディング、ネルソンス、ドゥダメル、ネゼ=セガン、
ペトレンコ、ラトル、ハイティンク、アバド(指揮)
ベルリン・フィル
(キングインターナショナル)
KKC-9612/25 21780円(10CD+4BD)
過度に音楽に没入せず、全体像を明確に描き出す
2011年から20年にかけて、ベルリン・フィルの指揮台に立った名指揮者たちのマーラー。演奏精度については真に驚嘆させられる。ハイティンクの第9番、ラトルの第7番、第8番はまさに記念碑的名演。現芸術監督のペトレンコの第6番も存在感を如実に誇示するもの。中堅以下も的確に自らのマーラー像を明確に提示している。全体に共通している傾向としては過度に音楽に没入することなく、全体像を明確に描き出していることがあげられよう。
ニューイヤー・コンサート2021
●スッペ:ファティニッツァ行進曲●ヨハン・シュトラウス2世:ワルツ「音波」/「ニコ殿下のポルカ」●ヨーゼフ・シュトラウス:ポルカ・シュネル「憂いもなく」●ツェラー:ワルツ「坑夫ランプ」、他
リッカルド・ムーティ(指揮)、ウィーン・フィル
(ソニー)SICC-2221/2 3190円
ムーティとウィーン・フィルの舌を巻く表現力の豊かさ
コロナ禍は新年恒例の催しにも影響を及ぼし、無観客になったのをご覧になった方も多いだろう。映像では寂しさもあったが、音楽のみ聴くと極めて豊饒な世界が広がる。ムーティのニューイヤーと言えば珍しい曲を多くのせた凝ったプロが売りだったが、今年はそうした面も残しながら名曲も多く取り入れたバランスの良いもの。表現力の豊かさは舌を巻くばかり。リハーサルの行き届いたオーケストラが指示に忠実に従っていることがわかる。
ベートーヴェン:交響曲集
レジーネ・ハングラー(ソプラノ) ウィープケ・レームクール(メゾ・ソプラノ)
クリスティアン・エルスナー(テノール) アンドレアス・バウアー・カナバス(バス)
マレク・ヤノフスキ(指揮)
ケルンWDR交響楽団 (キングインターナショナル)
KKC-6276/80 5940円
みずみずしい味わいに満ちたベートーヴェン
ヤノフスキは、ワーグナーの「ニーベルングの指環」の録音をはじめとするオペラの分野で高い評価を得ている人だが、シンフォニーでも着実に経験を積み上げている。このベートーヴェンではそうした彼の手腕が随所で生かされている。あくまで正攻法で、何も変わったことをしていない。けれども、そこから生まれる音楽はこの上なく新鮮で、みずみずしい味わいに満ちている。ベートーヴェンの交響曲に食傷気味の人にお勧めしたい一組だ。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
プロコフィエフ:ピアノ作品集
●プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第8番、「束の間の幻影」、
バレエ音楽「ロメオとジュリエット」からの10の小品(第2、4、6、10番)
ニコラ・アンゲリッシュ(ピアノ)
(ワーナー)9029526768 オープン価格
深い表現力が要求されるプロコフィエフで真価を発揮
ニコラ・アンゲリッシュはマルタ・アルゲリッチや諏訪内晶子との共演で知られ、彼女たちから「真の名手」と称賛される。新譜のプロコフィエフは超絶技巧ではなく深い表現力が要求される作品ばかりで、アンゲリッシュは真価を発揮。ソナタ第8番はエミール・ギレリスが初演した作品で、テンポが比較的ゆったりとし、柔和で温かい空気をまとっている。「束の間の幻影」と「ロメオとジュリエット」の小品も作曲家の内面に肉薄する演奏だ。
J.S.バッハ:平均律クラヴィーア曲集第2巻より
●J.Sバッハ:プレリュードとフーガ第1番/第7番/第8番/第9番/第11番/
第12番/第16番/第17番/第18番/第22番/第23番/第24番
ピョートル・アンデルシェフスキ(ピアノ)
(ワーナー)190295118754 オープン価格
こだわりの選曲で磨きに磨かれ練られた演奏
子どものころからバッハの音楽に魅せられているピョートル・アンデルシェフスキは、数年前に「いま平均律クラヴィーア曲集を勉強しているけど、壁にぶつかってしまってね」と話していた。完璧主義者として知られる彼のこと、ここに登場した録音はその壁を乗り越え、磨きに磨かれ練られた演奏。12曲が速めのテンポ、熟成した音色、ロマンあふれる風情を備え、究極の美しさで聴き手をとりこにする。こだわりの選曲で真価を世に問う意欲作。