交響曲・管弦楽曲・協奏曲
岡本稔◎音楽評論家
ブルックナー:交響曲第3番
クリスティアン・ティーレマン(指揮)
ウィーン・フィル
(ソニー)SICC-30575 2860円
楽団の個性を発揮させながら、極めて含蓄に富んだ音楽
ティーレマンとウィーン・フィルによるチクルス第2弾。名声に比して、指揮の機会の多くないこの指揮者だが、いったん登板すると卓越した演奏を聴かせる。この昨年のライヴも見事というほかない。以前の、この指揮者の演奏には自己主張が強すぎる印象も否めなかったが、近年は円熟相俟ってほとんど感じられなくなった。ここでも楽団の個性をいかんなく発揮させながら、極めて含蓄に富んだ音楽を聴かせる。ノーヴァク版、第2稿による。
ブラームス:交響曲第2番
●ブラームス:大学祝典序曲
ヘルベルト・ブロムシュテット(指揮)
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団
(キングインターナショナル)KKC-6357 3300 円
作品自体に語らせるアプローチが絶妙な味
現役最長老指揮者ブロムシュテットが、92歳の2019年に指揮した際のライヴ。このマエストロの音楽は、壮年期から、強く我をだすよりも、作品自体に語らせるという傾向が強かった。そのため、個性に乏しいというような評価を下されることもあったが、歳を重ねるにしたがって、そうしたアプローチは絶妙な味を醸し出すようになった。かつてシェフをつとめたこの名門との演奏にもそれは顕著にあらわれている。自然なたたずまいも見事だ。
室内楽・器楽
伊熊よし子◎音楽ジャーナリスト
マルタ・アルゲリッチ ベスト
●ショパン:英雄ポロネーズ●ラヴェル:水の戯れ●シューマン:ピアノ・ソナタ第2番第1楽章●バッハ:イギリス組曲第2番からサラバンド●プロコフィエフ:ピアノ協奏曲第3番第1楽章、他
マルタ・アルゲリッチ(ピアノ)
クラウディオ・アバド、シャルル・デュトワ(指揮)ベルリン・フィル、他
(ユニバーサル)UCCG-41072/3(2CD) 2420円
6月に80歳になるアルゲリッチのベスト・アルバム
マルタ・アルゲリッチが6月5日に80歳の誕生日を迎え、これを祝してベスト盤がリリースされる。ショパン・コンクールで優勝する5年前のラヴェルの「水の戯れ」から、指揮者クラウディオ・アバドとの共演による2013年のモーツァルトのピアノ協奏曲第20番第2楽章まで幅広い作品を聴くことができる。いずれも燃え立つような音色と自由奔放な魅力に満ち、疾走するテンポ、天に飛翔していくリズム、情熱的な表現が聴き手をとりこにする。
リフレクションズ プレイズ・ラフマニノフ・ファリャ・グラナドス
●ラフマニノフ:12のロマンス 作品21より 第7曲:ここは素晴らしい場所
●ファリャ:スペイン民謡組曲より 第2曲:子守歌[7つのスペイン民謡~第5曲/マレシャル編] ●グラナドス:スペイン舞曲集より 第2曲:オリエンタル[マレシャル編]●カタロニア民謡:鳥の歌[カザルス編]
パブロ・フェランデス(チェロ)、デニス・コジュヒン(ピアノ)
(ソニー)SICC-30578 2860円
心の叫びのような深遠で内省的な音楽を披露
敬愛するパブロ・カザルスと同じパブロという洗礼名をもつフェランデスが、自身のルーツであるスペインの作曲家と恩師であるロシア人のナターリャ・シャホフスカヤに敬意を表してラフマニノフを収録。心の叫びのような深遠で思索的で内省的な音楽を存分に披露している。特筆すべきはピアノのデニス・コジュヒンの抑制された美しい響き。弦とピアノの融合が妙なるデュオを聴かせ、夢見心地にさせる。チェロ界を活性化させる逸材だ。
オペラ&声楽
石戸谷結子◎音楽評論家
サンドリーヌ・ピオー「光と影」
●R.シュトラウス:歌曲「明日の朝」、「あおい」、「4つの最後の歌」ほか、全15曲
サンドリーヌ・ピオー(ソプラノ)
ジャン=フランソワ・ヴェルディエ指揮V.ユーゴ―・フランシュ=コンテ管
(ナクソス)NYCX10203 2970円
※α原盤、日本語解説書・歌詞つき
ほのかな光や愛に関わる曲を凛とした歌唱で
フランス最高のソプラノの一人、ピオーはこれまでにも考え抜かれたしゃれた内容のディスクを発表しているが、今回も「CLAIR-OBSCUR」というタイトル。イタリア語なら「キアロスクーロ」で「陰影法」という意味だという。歌われているのはツェムリンスキー、R・シュトラウス、ベルクの歌曲で、いずれも夜の闇や森の神秘、ほのかな光や愛に関わる曲。澄んだ声、揺るぎない凛とした歌唱でそれらの歌がひっそりとしめやかに美しく歌われる。白眉は「4つの最後の歌」。