vol.106 テノール 錦織健
5月17日に「日本の歌だけを歌う」リサイタル
「荒城の月」「この道」からいきものがかりまで
「なかにし礼さんの『遺言歌』を歌いたかった」
昨年5月に予定していたリサイタルがコロナ禍のために1年延期、ようやく5月17日に東京オペラシティで開かれる。タイトルが「日本の歌(だけ)を歌う」。チラシには「だけ」が漫画の吹き出しのようにデザインされ、ちょっとお茶目。
「なかにし礼さんが作詞された『遺言歌』をどうしても歌いたかったのです。なかにしさんは昨年暮れに亡くなってしまい、昨年リサイタルを行っていれば間に合いました。この曲は私の大学時代の恩師、田口興輔先生が初演しました。作曲家の溝上日出夫さんと友人だったようです。なかにしさんが館長を務め、台本を書いたオペラ『静と義経』を鎌倉芸術館で歌った後、『遺言歌』を歌え、この曲をやるよ、と言われました」と歌との出合いを語る。
「私が死んだら」で始まる「遺言歌」は5曲からなる組曲。22、3分はかかる。
「なかにしさんが若いころに書いた詩で、なかにしさんの遺言ではありません。私が死んだら故郷はどうなるだろう、恋人はどう思うのか、といった弱い男の泣き言のようなセンチメンタルな歌です。あまり演奏機会がありません。大切に温め続けた思い入れのある曲です」
他のプログラムは、滝廉太郎の「荒城の月」や山田耕筰の「この道」など日本歌曲に加え、武満徹「死んだ男の残したものは」や、後半には、さだまさしの「奇跡~大きな愛のように~」やいきものがかりの「風が吹いている」などポピュラー作品も入っている。「遺言歌」を5曲と数えると18曲にもなる。3部構成で、さらにアンコールもある。曲数の多いのがサービス精神豊かな錦織のリサイタルの特徴。
「日本の歌だけのプログラムは15年ほど前に浜松でやって以来です。武満徹さんの曲は歌ってみて、いい曲だな、何で今まで歌わなかったのだろうと思いました。ポップスや若い人たちにも才能のある人がいます。耳に入って、好きだなと思う曲の編曲を頼んで、プログラムに入れました。一晩で23、4曲歌うのは普通です。いつも幕の内弁当みたいに詰め込んでしまいます」
パソコンも持たず、SNSでの発信もしない。 「ライヴに行ったら会えるアーティストです(笑い)。発表の機会を大事にしたい」
Ken Nishikiori
国立音楽大学卒業。文化庁オペラ研修所第5期修了。文化庁在外研修員としてミラノに、また五島記念文化財団の留学生としてウィーンに留学。第4回グローバル東敦子賞、第1回五島記念文化賞新人賞、第6回モービル音楽賞洋楽部門奨励賞。1986年「メリー・ウィドウ」カミーユ役でデビュー。2002年からはオペラ・プロデュースも始め、15年には第6弾、モーツァルト作曲「後宮からの逃走」も手がけた。NHK紅白歌合戦への出演や、12年より6年間NHK-FM「DJクラシック」のパーソナリティーを務めるなど、幅広く活動している。
錦織健テノール・リサイタル 「日本の歌だけを歌う」
5月17日(月) 13:30
東京オペラシティ コンサートホール
日本古謡:さくらさくら 滝廉太郎:荒城の月
山田耕筰:この道/待ちぼうけ/からたちの花 小林秀雄:落葉松
武満徹:死んだ男の残したものは/小さな空 宮沢和史:島唄
溝上日出夫:独唱とピアノのための組曲「遺言歌」(作詩:なかにし礼)
喜納昌吉:花~すべての人の心に花を~ 服部良一:蘇州夜曲
さだまさし:奇跡~大きな愛のように~
いきものがかり:風が吹いている
多田聡子(ピアノ)
■問い合わせ:ジャパン・アーツぴあ ☎0570-00-1212