vol.12 ヴァイオリン 吉田恭子
ブラームスの「雨の歌」をメーンに3月にリサイタル
「春の香りがします。ブラームスは優しい人でした」
愛器グァルネリ・デル・ジェスの特性生かした作品
14回目のリサイタルを開く。いつもは秋だが、今回は花が咲き始める3月。
「ブラームスの作品78(ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」)をメーンにしたいと思いました。春のリサイタルなので少し温かい曲を、と考えました。私は、ブラームスは秋の作曲家ととらえていますが、作品78は春の香りがするのです。一雨ごとに温かくなるようなイメージです」
ブラームスは師のアーロン・ロザンドにたっぷりと教わった作曲家。そんな思い出もプログラムに重ねた。「雨の歌」は、ブラームス自身の歌曲「雨の歌」と「余韻」を引用しているから、そう言われる。
「ヴァイオリン・ソナタの『雨の歌』はクララの息子フェリックス・シューマンが24歳で亡くなった直後に作曲されました。クララは『この曲を持って天国に行きたい』といったそうです。ずいぶん慰められました。友人のヴァイオリニスト、ヨーゼフ・ヨアヒムはブラームスのことを『自由にして孤独』と言いました。自由と孤独は表裏一体です。ブラームスは頑固だけどとても誠実で、温かくて優しい人だと思います」
プログラムは、ブラームスの前にヘンデル、後半はショスタコーヴィチ、サン=サーンス、ヴィエニャフスキとバラエティーに富んでいる。ショスタコーヴィチの「24の前奏曲」は「隠れメーン」の曲だという。この曲は、本来はピアノ曲。ショパンに倣い、すべての調性で書かれている。
「ベートーヴェンが19世紀の孤高の作曲家とすれば、ショスタコーヴィチは20世紀最大の孤高の作曲家です。社会主義国で明日殺されるかもしれないという弾圧を受けながら、〝自分の声〟を残していきました。ソ連の大粛清の直前に書かれ、まだのびのびとした天才性を持っています。作風は自由でとってもおしゃれです。ツィガーノフ編曲のヴァイオリン版のうち、特にヴァイオリンで弾いた方が面白いと思う6曲を演奏します」
最後のヴィエニャフスキの「華麗なるポロネーズ」は、有名な1番ではなく、「よりヴァイオリンらしさ」が出る2番を選んだ。
今回初めて「名器グァルネリ・デル・ジェスで聴く」と銘打ち、自身の楽器をアピールしている。
「ヨアヒムは13台ヴァイオリンを持っていましたが、メーンはグァルネリでした。46歳で亡くなったグァルネリは、ブラームスと同じく『自由で孤独』だったと思います。今回は根底に温かい歌心のある作品を選びました。すべて長調の曲です。楽器の特性を生かしやすいのです」
Kyoko Yoshida
東京生まれ。桐朋学園大学を卒業後、文化庁芸術家海外派遣研修生として英ギルドホール音楽院、米マンハッタン音楽院へ留学。2001年、CDデビューし通算8作リリース。NHK「カラヤン生誕100年特別番組」、テレビ朝日「徹子の部屋」、テレビ東京「みゅーじん」等に出演。全国の小中学生等をクラシック音楽の世界に道案内する巡回教育プログラム「ふれあいコンサート」はこれまでに390回公演を開催。YEKアカデミー「若い芽のアンサンブル in 軽井沢」実行委員長。
オフィシャル・ホームページ → http://www.kyokoyoshida.com
■リサイタル
吉田恭子ヴァイオリン・リサイタル
名器グァルネリ・デル・ジェスで聴く「雨の歌」
3月7日(金)19:00 紀尾井ホール
ヘンデル:ヴァイオリン・ソナタ第4番
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲より
サン=サーンス:ハバネラ
ヴィエニャフスキ:華麗なるポロネーズ第2番
■問い合わせ:ムジカキアラ 電話03-5739-1739
2月15日(土)18:00 宗次ホール(名古屋)
■ 問い合わせ:宗次ホール 電話052-265-1718