おすすめアーティスト vol.124 ピアノ 小山実稚恵

vol.124 ピアノ 小山実稚恵

©Tomoko Hidaki

「恋するほど」好きなラフマニノフの協奏曲第3番
大野和士=都響とのシリーズ第1回で共演
メンデルスゾーンの協奏曲第1番も

 小山実稚恵が盟友、大野和士が指揮する東京都交響楽団と、「恋する作品」と自ら呼ぶラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を演奏する。10月29日、サントリーホール。レパートリーの広さを誇りながら、小山としては珍しいメンデルスゾーンのピアノ協奏曲第1番が前半に置かれたのも話題だ。
 サントリーホールでの小山の新しい演奏会シリーズ、「Concerto 《以心伝心》」。年に1度、4年にわたる協奏曲企画の初回に、曲をすみずみまで知り尽くしたラフマニノフ3番と、めったに演奏してこなかったメンデルスゾーンを組み合わせることにした。
 「ラフマニノフの3番は決めていて、もう一つの曲が課題でした。大野さんが『メンデルスゾーンは?』と言ってくれて、これだ、となったのです」
 名指揮者、ジャン・フルネと都響に招かれてメンデルスゾーンを演奏したのは、1991年2月。「大野さんがその時の演奏を聴いていてくれたのです。『やったよね?』と言ってくれて即決でした」。晩年のフルネと都響の特別な絆の中に入り、演奏されたメンデルスゾーン。それから30年の時を経て大野=都響との共演となる。「自分にとって自然な感じで、思いのままに素直に表現できるのがメンデルスゾーン。自然に自分が出せる曲です」

©Tomoko Hidaki

 では、ラフマニノフは、あらためて小山にとってどういう曲なのだろう。「恋する曲です。好きで好きでしかたがない曲。弾いた後に『はぁ』とため息をつく。本当に好きです。ピアノを弾く者にとって、あの曲は特別でしょう」
 小山は、フェドセーエフ=チャイコフスキー・オーケストラ(当時の名称はモスクワ放送交響楽団)と2002年に同曲を録音し、12年の両者のサントリーホールでの来日公演でもこの曲を弾いた。10年、20年と時を経て、解釈や表現は変わってきているだろうか。「自分でどうとは言えません。仮になにかを感じていたとしても、音に出せなければ意味がない。ただ、前より明と暗、強いと弱いの振幅の幅は大きくなったかもしれません」
 ロシアのウクライナ侵攻には、深い悲しみを覚える。「歴史は繰り返す。何があっても音楽は生き延びるのだと思います」
 Concertoシリーズは年に1回のペースで続く。2023年は、小林研一郎指揮日本フィルとベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番、5番を演奏することが決まっている。「音楽は魂であるとつくづく思います。小林さんも大野さんも、音楽に人生を捧げている方々。冷静に見える大野さんが、実は燃え尽きるくらい音楽に自分を捧げている。小林先生は、炎の人で燃えているとみえ、実は音楽を冷静に構築されています。『以心伝心』─。作品とも、指揮者とも、オーケストラとも、仲の良い結びつきを深められればと願っています」

Michie Koyama

東京芸大卒、同大学院修了。1982年チャイコフスキー国際コンクール第3位。85年ショパン国際ピアノコンクール第4位。「12年間・24回リサイタルシリーズ」(2006〜17年)や「ベートーヴェン、そして…」(19〜21年)は、その演奏と企画性で高い評価を受けた。10月29日より、サントリーホールにおける新シリーズ企画「Concerto〈以心伝心〉」がスタート。オーケストラや指揮者からの信頼も厚い。ショパン、チャイコフスキーの2大コンクールなどの審査員も務める。17年度紫綬褒章を受章。仙台での「こどもの夢ひろば」のゼネラル・プロデューサーを務める

ここで聴く
小山実稚恵 サントリーホール・シリーズ 
Concerto〈以心伝心〉

10月29日(土)16:00 サントリーホール

指揮:大野和士 東京都交響楽団
メンデルスゾーン:ピアノ協奏曲第1番
ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第3番、他
問い合わせ:サントリーホール TEL:0570-55-0017

「八ヶ岳の森 街の情景」第3回ウィーン「内心の声」

11月5日(土)15:00、6日(日)15:00 八ヶ岳高原音楽堂

シューベルト:4つの即興曲 作品90(全4曲)
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番
問い合わせ:八ヶ岳高原ロッジ TEL:0267-98-2131

小山実稚恵ピアノ・リサイタル ~親愛なるシューベルト~

11月13日(日)15:00 Bunkamuraオーチャードホール

シューベルト:楽興の時/即興曲 作品90、作品142より
シューベルト:ピアノ・ソナタ 第21番

問い合わせ:Bunkamura TEL:03-3477-3244

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