vol.125 小林海都◎ピアノ
リーズ国際コンクールで2位
紀尾井ホールで12月にリサイタルを開く
「モーツァルトとシューベルトはピリス先生の影響です」
マリア・ジョアン・ピリス、そしてラドゥ・ルプー──。尊敬するピアニストたちの名前から、小林海都が求めるものが見える気がする。音で人に何を伝えるのか。なぜピアノを弾くのか。そんな根源的な問いを重ねつつ、表現を深めているのだろう。
「ピリス先生との出会いは、高校2年の終わりでした。ヤマハホールでメネセスのチェロとの演奏会があり、先生は単独でブラームスの間奏曲(作品117)を弾きました。出だしから音が刺激的でした。悩み事なんてちっぽけなものに思われ、音楽をやる意味が分ったような気がしました。先生の音から憧れが生まれました」
留学を勧めるピリスの助言を受け、ベルギーへ渡る。
「ピリス先生の音は天性からのもので、しんのある音がまろやかに浮かび上がってくる。ピアノから出てくるのかとも思われないような、美しい音なのです。エリザベト妃音楽院のレッスンでは、どうしたらあんな音が出るのか見ていたことがあります。鍵盤に指が下ろされたその瞬間から、摩訶不思議な世界が生まれます」
2021年9月のリーズ国際コンクールで2位に。この12月2日、紀尾井ホールでリサイタルを開く。前半ではモーツァルトのピアノ・ソナタ第15番、シューベルトの≪6つの楽興の時≫を弾く。
「モーツァルトとシューベルトの選曲は、ピリス先生の影響です。シューベルトは理屈抜きに心に入ってきた作曲家。これからも時間をかけて取り組んでいきます。モーツァルトのこの曲は、ただただ美しい。美しさでしんみりします」
後半はクルターグの≪8つのピアノ小品≫とラヴェルの≪クープランの墓≫で構成した。
「クルターグは、リーズの時に弾いた作品。現代曲の課題曲から選びました。音数は多くないのですが、洗練された音から出る世界観が存在します。音と音の間の表現に、気持ちがそそられます。今はバーゼル音楽院に留学しており、レパートリーやスタイルを幅広く学んでいます。ラヴェルは、バーゼルでの学びのさまざまな面が出ると思います」
リーズのコンクールといえば、優勝者にルプーがいる。
「大好きです。もっとも尊敬している演奏家。バーゼルでバルトークの3番の協奏曲を弾くはずがキャンセルとなり、CDで聴くだけです。シューベルトは演奏家の思いが出すぎると気持ち悪い演奏になってしまう。ルプーにはそうならない自然さがあります」
紀尾井のリサイタルの後はロンドン・ウィグモアホールのリサイタルデビューが控えている。2023年5月19、20日には大阪フィル定期でショパンのピアノ協奏曲第2番を弾くなど、国内オーケストラとの共演の機会が増えそうだ。
Kaito Kobayashi
2021年リーズ国際ピアノコンクールで、1975年以来となる日本人歴代最高位の第2位及びヤルタ・メニューイン賞(最優秀室内楽演奏賞)を受賞し一躍脚光を浴びる。NHK交響楽団、ベルギー国立管弦楽団、バーゼル交響楽団、ロイヤル・リヴァプール・フィルなど国内外のオーケストラと共演。これまでにピアノをマリア・ジョアン・ピリス、湯口美和、故ヴェラ・ゴルノスタエヴァ、横山幸雄、田部京子の各氏に師事。エリザベート王妃音楽院での2年間を経て、現在バーゼル音楽院にてクラウディオ・マルティネス・メーナー氏のもと研鑽を積む。
小林海都ピアノ・リサイタル
12月2日(金)19:00 紀尾井ホール
モーツァルト:ピアノ・ソナタ 第15番 ヘ長調 K.533/494
シューベルト:6つの楽興の時 Op.94, D.780
クルターグ:8つのピアノ小品 Op.3
ラヴェル:クープランの墓