vol.43 ハープ 中村愛
CD「風と愛 日本のハープ音楽80年」をリリース
「ビルマの竪琴」「赤とんぼ」など前衛でない作品を「ハープの敷居を低くしたい。身近に感じてください」
リリースされたばかりのCDには、伊福部昭が映画「ビルマの竪琴」(市川崑監督)のために作曲した作品、童謡「赤とんぼ」や「もみじ」、イギリスの「グリーンスリーヴス」の編曲など聴きやすいメロデイーの作品26曲が収録されている。副題に「日本のハープ音楽80年」とあるように、日本人による初めてのハープ独奏曲石田一郎「牧歌」(1936年)から、現代作品まで我が国のハープ作品の歴史がたどれる。
「日本はハープ人口が少なく、貴族の楽器というイメージがすり込まれています。確かにマリー・アントワネットが好きで弾いており、フランス革命で貴族の象徴だったハープはたくさん破壊されました。このCDを聴いてもっと敷居が低いものだと知って欲しいのです。前衛的な作品を入れず、調性のある日本の曲ばかりなのは、身近に感じていただくためです」
ハープの歴史は紀元前3000年にさかのぼれるほど非常に古い。現代のペダル・ハープは、フランスのピアノ製作者エラールが19世紀初め、すべての調性で演奏できるように、ダブル・アクション・ハープを作り出し、発展した。
「ハープは47本の弦があります。低音はスチール、中央はテニスのラケットと同じガット、高音はナイロンで、調弦が非常に難しいのです。いまだに大きな音を出すための研究開発をしています。ハープのソロ作品はあまりありません。作曲家がハープの仕組みを知らなかったからです。ハープのソロ曲の大半はハープ奏者によって書かれてきました」
ベルリオーズの「幻想交響曲」は当初6台のハープを使用したが、現在は音が大きくなったため2台ですむ。
母親が音大時代にハープを演奏していたことがあり、自身も小学校6年生からハープを習い始めた。進学した東京音大は、同学年にハープが2人だけだった。
「ハープの魅力は、ピアノのはっきりした音と違い、ほあーんとした、どこかつかみどころのない音です。すべての弦が共鳴してしまうからです。印象派の絵のような感じでしょうか」
CDは過去の作品ばかりではない。平田智暁、江原大介、薮田翔一の若手作曲家への委嘱作品も入っている。
「今の時代に調性音楽を委嘱したらどんな作品になるか、期待しました。あまり難しく考えないで聴いてほしい。台所で料理をしながらでも気軽に聴いてください」
今秋にはクリスマス・アルバムをリリースすることも決まっている。
Megumi Nakamura
千葉県生まれ。東京音楽大学卒業。同大学院科目等履修修了。ヨゼフ・モルナール、木村茉莉、篠崎史子に師事。第9回大阪国際音楽コンクールハープ部門第3位。2011年、数々の著名音楽家のコンサートを手がけた村上信爾氏のプロデュースにより、すみだトリフォニーホールで初リサイタル。群馬交響楽団、ベトナム国立交響楽団、武漢管弦楽団など内外のオーケストラと共演。
■CD
風と愛 日本のハープ音楽80年 (写真)
伊福部昭:「ビルマの竪琴組曲」 (1956)
石田一郎:牧歌 (1936)
福田幸彦:映画「新道 前篇朱実の巻」より (1936)
露木次男:花 (1938)
山田耕筰(冬木透編):赤とんぼ (1968)
岡野貞一(冬木透編):もみじ (1968)
雨田光平:初夏草心抄 (1948)
モルナール:さくらさくら(1960年代)、他
(キングインターナショナル)KKC-042