vol.7 ピアノ 仲道郁代
モーツァルトのピアノ・ソナタ全集をリリース
当時の楽譜を研究し、演奏法などを勉強
「規則を知った上での自由さが大事です」
CD6枚組というモーツァルトのピアノ・ソナタ全集をリリースする。ピアノ・ソナタ18曲、3曲の変奏曲、2曲のロンドと幻想曲のレコーディングは、2009年7月からはじめ、12年1月まで2年半かかった。
「ベートーヴェンのソナタは、1、2、3番と最後の30、31、32番と書法にかなりの違いがあります。モーツァルトはランダムに聴いても面白い」
2008年から11年まで、横浜と神戸で「モーツァルト:ピアノ・ソナタ全曲演奏会」を開いた。モーツァルトと向き合い学んだことはたくさんある。
「モーツァルトの時代の記譜法は今の記譜法と違っています。古典的研究をするまで知りませんでした。今の記譜法を当てはめて弾くと違うのです。例えばスラー(音をつなげ滑らかに演奏する)がディミヌエンド(次第に音を弱める)という意味だったりします。さまざまな可能性の中では前後の音のつらなりの中から楽譜をどう読むか考えなければいけません」
もちろん当時とは楽器も違う。モーツァルト時代のフォルテピアノは61鍵5オクターブしかなかった。仲道は、3年前にリリースしたショパンのピアノ協奏曲第1番、第2番では、古楽の有田正広の指揮で1841年のプレイエルを使い録音した。また今回はモーツァルト時代のシュタインのレプリカも購入し、実践を積み重ねてきた。
「古楽の勉強は一朝一夕には出来ませんので、有田さんにも教えていただきました。楽器の構造を知っているとなるほどと思うことがたくさんあります。モーツァルトがどのような音を求めていたのかが分かります。そうしたことを知った上で、モダンのピアノで弾くにはどうしたらいいのか、考えました。フォルテピアノと現代のピアノの中間を探すのではなく、この音楽をどう生かすのかということを目指しました」
横浜のフィリアホールで開催された「モーツァルト:ピアノ・ソナタ全曲演奏会」に際して、対談したモーツァルト学者の海老沢敏氏はこう語っている。
「仲道さんは今のピアノで弾かれるのだし、演奏したいようにされればいいのです。ただし根拠はないといけませね。いろいろあるけど自分はこれを選んだ、という感覚的なものでもいいのです」
「規則を知った上での自由さがとても大事だと思います。モーツァルトの時代を訪ねて、そこから聴こえる現代に生きる音楽。そんな風に聴いていただけたら幸せです」と仲道は話した。
Ikuyo Nakamichi
1987年のデビュー以来、人気・実力ともに日本を代表するピアニストとして活躍。近年はモーツァルト、ベートーヴェンなどの全曲演奏会などの他、子どもたちに音楽との幸せな出会いをして欲しいと行う「不思議ボール」など、魅力的な内容とともに豊かな人間性がますます多くのファンを魅了している。メディアへの出演も多く、音楽の素晴らしさを広く深く伝える姿勢は多くの共感を集めている。
■CD
仲道郁代
モーツァルト:ピアノ・ソナタ全集(写真)
DISC1:ピアノ・ソナタ第1~4番
DISC2:ピアノ・ソナタ第5~7番、他
(ソニー)SICC-30130~35(6枚組)
9月25日発売予定
■リサイタル
モーツァルトの1日~CDリリース記念
10月14日(月・祝)12:30
モーツァルトとタイムトリップ
モーツァルト時代のフォルテピアノと
スタインウェイを聴き比べる
同日15:00
モーツァルトを解釈するってどういうこと?
話を交えて演奏を
サントリーホールブルーローズ
■ 問い合わせ:ジャパン・アーツぴあ 電話 03-5774-3040