vol.73 ソプラノ 髙橋絵理
「コジ・ファン・トゥッテ」のフィオルディリージ
11月、日生劇場のニッセイ・オペラに出演
「モーツァルトの美しい音楽を楽しんでください」
「フィオルディリージは複雑な役です。上から下まで声のバランスを取ることが難しい。1つのフレーズの中で、1オクターブを跳躍する役はなかなかありません。きっちり勉強しないと歌えません」
五島記念文化賞新人賞を受賞して、イタリア・ボローニャで約1年勉強して帰国。帰国してすぐの2016年7月、仙台で公演された「コジ・ファン・トゥッテ」で初めてフィオルディリージを歌った。今回が2度目になる。
「『コジ・ファン・トゥッテ』の表面だけを見たら、現実にはありえないような物語です。しかし、随所に哲学が入っています。人間の弱さ、恋人や姉妹の関係性、身分の異なる人との関係が描かれます。背景には自由に恋愛ができなかった貴族社会の結婚に対する考え方があります」
フィオルディリージとドラベッラは姉妹。フィオルディリージは青年士官グリエルモの恋人、ドラベッラは同じくフェルランドの恋人。哲学者ドン・アルフォンソに、女心を試す計略を持ちかけられ実行する。青年2人はアルバニア人に扮装し、グリエルモはドラベッラを、フェルランドはフィオルディリージと逆の相手を口説く。その結果は? 道徳的に批判された物語は、ベートーヴェンが驚き、ワーグナーがあきれた、という〝問題作〟。
「単に仲がよいだけの姉妹ではないこと、キャラクターの違いは音楽から分かります。お互いに張り合っているのです。ドラベッラに感化されてフィオルディリージは行動します。フィオルディリージはずっと葛藤しているのですが、ドラベッラに対する反発心もあるでしょう」
小さな頃から歌うことが好きだった。小学4年から合唱を始め、中高と合唱部で活動した。オペラをよく分からないまま、音楽大学に入学したが、図書館でフレーニが歌う「ボエーム」のミミを見て感動で泣いてしまったという。
「オペラは歌って演じる喜びがあります。制約はありますがすごく自由です」
ヴェルディやプッチーニなどイタリア・オペラが好き、と話す。師の田口興輔には美しい発声法や言葉の使い方を鍛えられた。
「自分自身をフィルターにすることを意識しています。自分というより役を見てもらいたい。ストーリーを楽しんでほしい。フィオルディリージが葛藤し悩むほど崇高な音楽になります。モーツァルトがフィオルディリージに与えた美しい音楽を楽しんでもらえればと思います」
Eri Takahashi
秋田県出身。国立音楽大学声楽科卒業。同大大学院声楽専攻オペラコース修了。二期会オペラ研修所第50期修了。新国立劇場オペラ研修所第10期生修了。長谷川留美子、田口興輔、セルジョ・ベルトッキ、パオラ・モリナーリに師事。2011年第6回静岡国際オペラコンクール第3位。12年、二期会創立60周年記念公演「パリアッチ(道化師)」ネッダ役で二期会デビュー。13年、「ホフマン物語」アントニア役に出演。平成26年度五島記念文化賞新人賞を受賞し、イタリア・ボローニャで研鑽。二期会会員。
日生劇場開場55周年記念公演
NISSAY OPERA 2018
「コジ・ファン・トゥッテ」
11月10日(土)、11日(日) 各日13:30
日生劇場(東京)
指揮:広上淳一 演出:菅尾友
読売日本交響楽団
10日 11日
フィオルディリージ 嘉目真木子 髙橋絵理
ドラベッラ 高野百合絵 杉山由紀
フェルランド 市川浩平 村上公太
グリエルモ 加耒徹 岡昭宏
デスピーナ 高橋薫子 腰越満美
ドン・アルフォンソ 与那城敬 大沼徹
■問い合わせ:日生劇場 電話03-3503-3111