vol.78 ピアノ ヴァレリー・アファナシエフ
「テスタメント(遺言)」と題されたCDを発売
6枚組で、ハイドンなどほとんどが初録音
「どうしても後世に自分の解釈を残しておきたい」
「ピアノの鬼才」と呼ばれるアファナシエフが、「テスタメント(遺言) 私の愛する音楽」と題するCDを2月に発売する。1947年生まれで、まだ71歳を越えたばかり。「遺言」には早すぎるのではないだろうか。
「仕事中毒なのでずっとハードワークを続けてきました。人生をどこかで振り返り、今後何ができるのか考えてみることがあっていいと思います。すべての日を最後の日と思って過ごす、という考え方があります。どうしても後世に自分の解釈を残しておきたい、と1日1枚ずつ慎重に録音しました。最終的にはよいレコーディングができました。ですからもし間違いがあったら私にお知らせください」と話す。
CDは6枚組のボックスセットで、録音は2017年4月と7月、ドイツのフィアゼンで6日間行われた。ベートーヴェン、シューベルト、シューマンといったレパートリーのほか、録音がなかったハイドン、ビゼー、フランク、ドビュッシーというフランスもの、故郷ロシアのプロコフィエフの大作、ソナタ第6番を収録した。一部の小品を除き初録音になる。
「やはり作品はバラエティーに富むように考えました。そして私のさまざまな音楽の趣味を反映したものにしたかったのです。そしてノスタルジアもありました。私の音楽観をパノラマのように紹介したいと思ったのです」
極めて遅いテンポや間、音の響き、その独自の解釈などから「鬼才」と言われてきた。
「リヒテルは作曲家の本当の意図は分かるのか、と言いました。トスカニーニもそう言っていました。ベートーヴェン自身が何か言ったのでしょうか。ラフマニノフはピアノ協奏曲第2番の録音を残していますが、自分の音楽を自分とまったく同じように弾いてもらおうとは思っていませんでした。ホロヴィッツが弾いたピアノ協奏曲第3番を聴いて、むしろ自分よりずっと上手だと言ったそうです。これはすごく複雑なことです。音楽にまったく興味がない人もたくさんいます。皆が音楽を聴くべきだ、という考え方はどうかと思うのです」
今後はこれまでそれほど積極的でなかったラフマニノフを弾いていくという。
「私自身が私というマスターピースを作っているのです。全ての芸術を自分で作りたいのです。自分という芸術を作るのです。私は名声や社会的な地位にはまったく興味がありません。私だって周りに合わせていくことはできますが、自分のためにしているのです。いろいろな人に出会い、経験し自分を開いていきます。自分の性格を大事にしていきたいのです」
Valery Afanassiev
1947年モスクワ生まれ。モスクワ音楽院でヤーコフ・ザークとエミール・ギレリスに師事。1968年のバッハ国際音楽コンクール、72年のエリザベート王妃国際音楽コンクールで優勝。74年にベルギーへ亡命した。83年にギドン・クレーメルの共演者として初来日。94年の第10回《東京の夏》音楽祭では、作曲者ムソルグスキーと対話しながら演奏する音楽劇『展覧会の絵』を自作自演で上演して、反響を呼ぶ。これまでに40枚以上のCDをリリース。ピアノ演奏にとどまらず、『失跡』などの小説を発表。現在はブリュッセルを拠点に活動。
■CD
テスタメント/私の愛する音楽
~ハイドンからプロコフィエフへ~
DISC1 ハイドン:ピアノ・ソナタ第20、23、第44番
DISC2 ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ第4、16、19番
DISC3 シューベルト:ピアノ・ソナタ第4番、4つの即興曲
DISC4 シューマン:ピアノ・ソナタ第1番、3つの幻想小曲集、アラベスク
DISC5 ビゼー:半音階的幻想曲
フランク:前奏曲、コラールとフーガ
ドビュッシー:ベルガマスク組曲
DISC6 プロコフィエフ:ピアノ・ソナタ第6番
「戦争ソナタ」、伝説曲、ガヴォット、風刺
ハイブリッドディスク6枚組 SICC-19034~39
2月27日発売 17820円