vol.8 ヴァイオリン 寺神戸 亮
北とぴあ国際音楽祭で「フィガロの結婚」を指揮
「『フィガロの結婚』は息もつかせぬどんでん返しの連続で、見る者聴く者を飽きさせません」
北とぴあ国際音楽祭2013が、11月1日から24日まで開催される。今回のメーンの一つが、オリジナル楽器で演奏されるモーツァルトの「フィガロの結婚」。バロック・ヴァイオリンの第一人者で、指揮をする寺神戸亮に話を聞いた。
―「フィガロの結婚」は、初夜権を復活させようとする伯爵をからかい、貴族制度を批判しています。テーマに即した演出的なものはお考えですか。
これは時代的なものですから、このテーマ自体を現代の政治的なものや、社会情勢に当てはめようとは考えていません。しかしながら伯爵の持つこの願望や策略は現代の男性の中にも潜んでいるものなので、人間の持つ根源的な欲望の表れとして扱うつもりです。その欲望が伯爵という単純でお人好しの人間から発散され、罪のないドタバタに収束されていくところ、伯爵を決して単純に悪人扱いしていないモーツァルトの愛情溢れる表現に注目していきたいと思います。
―音楽的な魅力はどこにあるのでしょうか。
モーツァルトの後期のオペラは他に比類のないものです。中でも「フィガロの結婚」は息もつかせぬどんでん返しの連続で、見る者も聴く者も飽きさせません。マルチェッリーナの横恋慕からのあっと驚く結末や、切羽詰まった伯爵夫人を思いもよらない奇策で救うスザンナ。台本はモーツァルトの音楽的才能をたっぷりとつぎ込ませ、開花させるのに十分な魅力を備えています。
―オリジナル楽器の演奏と、モダンの楽器での上演は何が違いますか。
楽器は道具にすぎません。しかしながら音楽に合った道具を使うことによってより、その音楽の本質に近づくことが容易になるということを今までにたくさん経験してきました。モーツァルト時代の楽器は現代の楽器に比べると倍音が多く、合奏になるとより透明感があります。そのため楽器同士が溶け合って新しい音色を生み出します。また歌ともよく混じり合うので、バランスが取りやすいのも長所の一つと言えるでしょう。
―お客様に、どこを聴いていただきたいですか。
今回の上演では特別な「演出」はしません。モーツァルト時代と同じようにそれぞれが自分の役を良く把握し、その場と音楽に合わせた演技をするのです。歌手は自分の歌っている内容から自然に演技を引き出していきます。そのことによって簡潔ながら、より歌詞と音楽に沿った表現が生まれるものと確信しています。
Ryo Terakado
1961年、ボリヴィア生まれ。桐朋学園大学に学び、在学中の83年、東京フィルのコンサートマスターに就任。オリジナル楽器のバロック演奏を学ぶためオランダのデン・ハーグ王立音楽院に留学。シギズヴァルト・クイケンに師事。レザール・フロリサン、ラ・プティット・バンドなどのコンサートマスターを務める。95年、第1回北とぴあ国際音楽祭のパーセル「ダイドーとエネアス」で指揮者デビュー。デン・ハーグ王立音楽院教授、桐朋学園大学特任教授。ベルギー在住。
北とぴあ国際音楽祭
モーツァルト:歌劇「フィガロの結婚」
(セミ・ステージ形式)
北とぴあさくらホール(東京)
11月22日(金)18:30
11月24日(日)14:00
フルヴィオ・ベッティーニ(アルマヴィーヴァ伯爵)
クララ・エク(伯爵夫人)、ロベルタ・マメリ(スザンナ)
萩原潤(フィガロ)、波多野睦美(ケルビーノ)、他
指揮:寺神戸亮 管弦楽:レ・ボレアード
■問い合わせ:北区文化振興財団
電話:03-5390-1221